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第57章 たかがキスごときで

人工的に造られた砂浜から少し離れて芝生の上でご飯を食べてる家族連れを見かけた。

「あそこぐらいかな、食べる場所は」

砂浜がさざ波をゆらゆらとさせている眺めの良い場所だ。

だが、風が冷たく寒い。

「あそこじゃ寒いよねぇ。他に無いのかな」

楓も少し躊躇した。

とは言え、他に食べる場所は無い。

「でも他に無いからな…食べたらすぐに移動しよう」

「うん。でも今日はいっぱい作ってきたよ」

楓はニコッと笑い、バッグの中から保温ランチジャーを取り出し、芝生の上でジャーの中からパエリアと、ミネストローネ風のスープを取り出した。

「こりゃ美味そうだ！しかもこのスープ暖まりそう！さすが料理上手、いい奥さんになれるよ」

「…えっ？」

楓は一瞬頬を赤らめ、下を向いて照れていた。

「…いい奥さんになれるかなぁ」

「ん？」

「…いや、何でもない、さぁ食べよう」

楓は結婚願望が強いのか…
でもいい奥さんになれそうなのは確かだ。

「じゃあ、いただきまーす」

「はい、どうぞ」

晴れているとはいえ、寒空の下、このスープが身体を暖めてくれる。

塩加減も絶妙だ。

「あぁ、暖まって美味い」

これほどまで、手作りの弁当が美味いと感じた事は無い。

今までで一番美味い弁当だった。