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アナザーストーリー【快楽に溺れ、過ちを繰り返す生命体】特別編
第57章 たかがキスごときで
もしかして、初めて手を繋いだのかもしれない。

無言のまま、オレたちは手を繋ぎながら、暫く砂浜を歩いた。

風は相変わらず冷たいが、オレの心は暖かかった。

この砂浜に押し寄せるさざ波の音が癒しを与えてくれる。

もうすぐで今年も終りか…

遥か向こうの水平線を眺め、何となく感傷的な気分に浸った。

どのくらい歩いたのだろうか、気がつけばかなり駐車場から離れた場所まで歩いていた。

「寒くなってきたし、そろそろ行こうか。風邪引いたらシャレになんないから」

オレの問いかけに楓はコクっと頷いた。

今度はどこに行こうか、そんな事を考えながら駐車場の方へ踵を返した。

砂浜を長く歩いたせいか、足がだるくなって疲れた。

多分楓も足がパンパンだろう。

でもホントに美脚だ。

楓という彼女が出来て、オレは毎日が楽しくて、浮かれていた。

楓は終始無言だった。

不満げな感じではなく、この雰囲気に浸っているのだろうか。

ようやく駐車場に着き、ドアを開け、オレたちは車に乗り込んだ。

楓は少し潤んだ瞳をしてオレを見ている。

(今だ)

オレは楓の唇を奪うようにキスをした…

楓も目を閉じて唇を重ね、身を任せていた。

オレは楓の閉じた唇に舌を入れ、絡め合おうとしたが、楓が突然目を開け、バッと離れた。

「…え、何で?」

何で?って、こっちが何でだ…

「亮ちゃん舌を入れようとしたでしょ…」

信じられない!というような顔をしている。

キスだから舌を絡め合うのは当然だろう。

オレは母親とキスする時は必ず互いの舌を絡め合った。

「…まだそういう事はしたくないの…」

…は?キスで舌を絡め合わないって変じゃないか?

何か言おうとしたが、止めた。

たかがキスで大袈裟な。

これを境にオレと楓の価値観のズレが生じ始めた。

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