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第5章 シーン　5

「何かあったのか？」
　帰って来たあたしの態度が硬いのを見て、大輔が顔を覗きこむようにして聞いてきた。
「何にもないよ。」
　風間さんとのデートを終えてあたしが家に戻ったのは時計が零時を回り、日付が変わってしまった直後だった。
　彼はタクシーで家の前まで送ってくれて、遅くなったことをしきりに気にしていた。
「大丈夫よ、同窓会で遅くなる事は言ってあるから。」
　あたしはそう言いながら、風間さんに向かってそう言い訳をしなければいけない事がまた彼を傷つけている事を承知していた。でも分かっていてもそう言わざるを得ない事が自分でいやになる。車を降りるときにずっと握っていたあたしの手を彼はさらに強く握りしめて来た。あたしは握り返すのが精一杯で、そこに込められた彼の気持ちを胸に刺さってくる痛みとともに身体の中に刻み込んだ。