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遠い日の約束。
第10章 記憶の破片
「春馬…触って…」

自分の胸に春馬の手を当てても、触ってもくれない。
触って欲しいのに。
春馬に触って欲しいのに…
涙があふれてくる。

「…春馬…辛いの…身体が熱くて…狂いそう…」

「あの…お客さん…警察に行かなくていいんですか?それとも…病院?」

私たちの会話を聞いていた運転手さんがどうしていいのか分からず声をかけてきた。
春馬は私をもう一度抱きしめる。

「迷惑をかけてしまってすいません。このことは社内でケリをつけますから、大丈夫です。そのまま目的に行ってください。」

春馬の言葉に「そうですか」と戸惑い私たちを気にしながら俊樹の家まで運んでくれた。
その間中疼く身体が安らぐことはない。
ギュッと春馬の腕を握れば、身体ごと少し強い力で抱きしめてくれる。
それを何度が繰りかえせば、タクシーは突然止まった。
俊樹はずっと玄関先で待っていたのか、タクシーがつくなりドアを開けて中にいる私たちを見て唖然としていた。

「三宅さん…何をしたんですか!!」

今までに聞いたことのない声だった。
何の説明もせず、春馬に抱きしめられている私を見れば俊樹の怒りも普通じゃない。

「話はあとだ。…迷惑をかけました…おつりは結構です」

少し多めのお金を渡して、私を抱きかかえてタクシーを降りた。
私は俊樹に合わす顔もなく、自力で歩くことも出来なかったので春馬にしがみついていた。

「ドア開けてくれ…部屋に行って話す…」

俊樹にオートロックのカギを解除させエレベーターに乗った。
エレベータの中は沈黙に包まれて重い空気が流れていた。

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