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遠い日の約束。
第15章 残された者の哀しみ
涙を拭いて廊下の方に目を向けると和尚と妙仁が障子を開けて中に入ってきた。
南和はガタガタと震えたままで麻耶の腕の中から顔をあげようとはしなかった。

『…やはり麻耶ではないと駄目なのだな…これを食べさせてあげなさい。ここに連れてこられてからほとんど何も口にしていない…』

麻耶の目の前に妙仁が重湯を置いた。
そこにはふたつのお椀があった。

『麻耶も食べていないのだろう?…気持ちは分からないでもないが、蘭子や家族の為にしっかりとしないとな』

和尚は麻耶の頭を撫でて出て行った。
自分がしっかりしないと…
その言葉が胸に染みる。
母様は何も手につかず食事すらしようとしない。
蘭子もまだ小さく手がかかり、ふたりの世話すのは麻耶で、和尚の言う通りしっかりしないといけなかった。

『南和…食べよう?』

抱きしめていた手を解いて告げると、南和は静かに首を振った。

『食べないと駄目だよ?』

お椀を口に持って行っても顔を背けて食べようとはしなかった。

『…死にたいの?』

食べないということは死を意味すること。
それを考えると南和は死を待っているではないかと麻耶は思えてならなかった。

『…死…ねる…?』

死という言葉に反応して、縋るように麻耶を見上げた。
その表情に麻耶は静かに首を横に振る。

『死ねないよ…死んじゃダメなんだよ…私たちは…生きていなくちゃいけないの…』

『でも…美弥も葉月もいないんだよ…死…んじゃった…』
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