この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第2章 初戀のひと

ゆっくりとしなやかに近づいてくる光に、夫人は少しばつが悪そうな顔をしながらも、強気に表情を取り繕う。
「まあ、光様。ご機嫌よう」
仰々しくお辞儀してみせる夫人に、光はさらりと尋ねる。
「黒田公爵夫人、私の記憶に間違いがなければ、貴女はご招待申し上げてないはずなのですが…」
…暁が夫妻に色仕掛けを受けた一件で礼也が激怒し、黒田夫妻を夜会に招待しなくなり久しいのだ。
光はそれを覚えていた。
夫人は大げさに扇で口元を隠しながら、わざとらしく笑う。
「あら…そうでしたかしら?…てっきりご招待状を頂いていたとばかり思っていましたわ」
光は、にっこりと笑うと立て板に水の如く言い放つ。
「では、今はっきり申し上げますわ。…黒田ご夫妻を我が家の夜会にお招きすることは、未来永劫あり得ません。私は私の下僕を恫喝するようなお方をこの屋敷に一歩たりとも入れるつもりはありませんの。…主人の耳に先ほどのお話が入ったら、大変なことになりますわ。潔癖な主人は貴女を訴えるかもしれません。…何しろ奥様の余罪はまだまだあるのですからね…。牢屋にお入りになるのは、奥様かも知れませんわね…?」
身に覚えのある夫人は見る見るうちに青ざめ、口をパクパクとさせるばかりであった。
「…日本ではこんな時、塩を撒いてお見送りするのでしたかしら?…私、パリの生活が長くて日本の風習をよく存じ上げませんの。ごめんあそばせ」
光のにこやかだが決して逃げ道を残さない迫力に夫人はたじたじとなり、蚊の鳴くような声で囁いた。
「…わ、わたくしの勘違いでしたわ…す、すぐに失礼いたします!」
転びそうになりながら、あたふたと玄関ホールに逃げ出す夫人に、光は良く通る美しい声を放った。
「生田、お客様がお帰りです。…丁重にお見送りをして」
玄関脇にいた生田が扉を開き、慇懃に夫人を送り出す。
夫人が姿を消した瞬間、光は鼻を鳴らす。
「…なんだ…。口ほどにもない方ね。…もう少しとっちめたかったのに…」
泉は感激の余り、言葉が出なかった。
光は泉を庇い、夫人を撃退してくれたのだ。
「…お、奥様…俺…」
真っ直ぐな瞳が泉を見つめる。
「私は貴方の主人よ。主人は使用人を守る義務があるの」
そして優しく付け加える。
「薫を可愛がってくれるお礼よ…。…これくらいじゃ足りないけれどね」
…と、美しい瞳でウィンクして見せたのだった。
「まあ、光様。ご機嫌よう」
仰々しくお辞儀してみせる夫人に、光はさらりと尋ねる。
「黒田公爵夫人、私の記憶に間違いがなければ、貴女はご招待申し上げてないはずなのですが…」
…暁が夫妻に色仕掛けを受けた一件で礼也が激怒し、黒田夫妻を夜会に招待しなくなり久しいのだ。
光はそれを覚えていた。
夫人は大げさに扇で口元を隠しながら、わざとらしく笑う。
「あら…そうでしたかしら?…てっきりご招待状を頂いていたとばかり思っていましたわ」
光は、にっこりと笑うと立て板に水の如く言い放つ。
「では、今はっきり申し上げますわ。…黒田ご夫妻を我が家の夜会にお招きすることは、未来永劫あり得ません。私は私の下僕を恫喝するようなお方をこの屋敷に一歩たりとも入れるつもりはありませんの。…主人の耳に先ほどのお話が入ったら、大変なことになりますわ。潔癖な主人は貴女を訴えるかもしれません。…何しろ奥様の余罪はまだまだあるのですからね…。牢屋にお入りになるのは、奥様かも知れませんわね…?」
身に覚えのある夫人は見る見るうちに青ざめ、口をパクパクとさせるばかりであった。
「…日本ではこんな時、塩を撒いてお見送りするのでしたかしら?…私、パリの生活が長くて日本の風習をよく存じ上げませんの。ごめんあそばせ」
光のにこやかだが決して逃げ道を残さない迫力に夫人はたじたじとなり、蚊の鳴くような声で囁いた。
「…わ、わたくしの勘違いでしたわ…す、すぐに失礼いたします!」
転びそうになりながら、あたふたと玄関ホールに逃げ出す夫人に、光は良く通る美しい声を放った。
「生田、お客様がお帰りです。…丁重にお見送りをして」
玄関脇にいた生田が扉を開き、慇懃に夫人を送り出す。
夫人が姿を消した瞬間、光は鼻を鳴らす。
「…なんだ…。口ほどにもない方ね。…もう少しとっちめたかったのに…」
泉は感激の余り、言葉が出なかった。
光は泉を庇い、夫人を撃退してくれたのだ。
「…お、奥様…俺…」
真っ直ぐな瞳が泉を見つめる。
「私は貴方の主人よ。主人は使用人を守る義務があるの」
そして優しく付け加える。
「薫を可愛がってくれるお礼よ…。…これくらいじゃ足りないけれどね」
…と、美しい瞳でウィンクして見せたのだった。

