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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第2章 初戀のひと
…泉が凍りついた石像のように固まっている。
その眼差しの先には…
1人の…驚くほどに美しく…若き貴婦人が同じように微動だにせずに、泉を見つめていた。

…誰だろう…。
暁は眼を凝らした。
とても若いけれど、令嬢ではなさそうだ。
美しく優美に結い上げられた大人びた髪型が未婚の令嬢のそれではなかった。
また、ドレスも落ち着いた藤色のあまりスカートの広がりがない慎ましやかなものであった。
だが、夜目にも高価で質の良いドレスであり、アクセサリーであることが見て取れた。

「…貴保子様…!」
泉が絞り出すような声で低く叫んだ。
「…泉…!…貴方…なぜここに…?」
夫人は震える声で尋ねる。

貴保子様…
漸く暁は思い出した。
先ほど、礼也に紹介された若き夫妻の妻の方だ。
…確か
…野々宮貴保子と名乗っていた。
夫は繊維会社の若き社長…。
…成り上がりに属する金持ちではあるが、商才があり、人物も知的で魅力的な人柄であるようだった。
礼也とは最近、ポロを通して知り合ったらしく、暁も初見の紳士であった。

「…野々宮くんは最近、結婚されたのだよ。…新婚さんだ」
礼也の紹介に、野々宮の傍に控えめに寄り添う貴保子が恥ずかしそうに俯いた。
野々宮はそんな妻を愛おしげに見つめていた。

…夫妻共、人の良さげな好感が持てるご夫婦だな…と、暁は微笑ましく思ったものだ。

…その細君の貴保子と泉が…
一体どういう関係なのだろうか…
暁はその場で息をつめ、二人の様子を見守った。

「…俺は…昨年からこちらのお屋敷で下僕として働いているのです…」
感情を押し殺した声…。
「…そうだったの…。…家を追われ、黒田公爵家に勤めたことまでは風の便りで聞いていたわ…」
貴保子の泉を見つめる眼差し…。
熱いような、物悲しいような、切ないような眼差し…。
あれはかつて恋人同士だった者のそれだ。

「…貴保子様は…なぜこちらに…。本日の招待客の名簿には伊勢谷子爵様はいらっしゃらなかったはずです」
泉が訝しげに尋ねる。

…伊勢谷…子爵…?
確か、泉が最初に勤めた貴族の名前だ。
…辞めた理由を頑として語らなかった。
その家の令嬢なのだろうか…。

「…ええ、そうよ。…私はもう伊勢谷貴保子ではないの。…結婚して、野々宮貴保子になったのよ…」
意を決したように口を開く貴保子の貌は青ざめ、その華奢な肩は震えていた。




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