この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第2章 初戀のひと
泉が息を呑む気配が暁にも伝わる。
「…結婚…」
冷え冷えとした温度のない声であった。
貴保子は震える声で…しかし、その眼は決して泉から逸らさずに
「…ええ。…今年の1月に…。…貴方との愛を誓ったのに…貴方と引き離されたら死ぬつもりだったのに…私は貴方を裏切って、親が決めた婚約者と結婚をしたのよ…」
懺悔のような言葉…。
…死ぬつもりだった…?
暁は、貴保子の言葉に愕然とする。

「…私を軽蔑して…憎んでもいい。…貴方を裏切って…あまつさえ貴方を見捨てた…。最低の女だわ…」
泉は、ため息まじりに呟いた。
「…そんなこと…出来るはずがない…。俺は…貴方が初恋だった。…貴方が全てだった。…あの日…二人で屋敷を逃げ出した…。貴方は、結婚させられるなら俺と死にたいと言ってくれた。…だから、俺は貴方を連れて逃げた…。貴方を死なせるつもりはなかった。
だから夜汽車に乗り…必死で逃げた。
…だが、あっけなく捕まった。
貴方は屋敷に戻され…俺は首になった。…それ以上のお咎めがなかったのは、ことが表沙汰になり、貴方の名前に傷が付くことを懸念したからだろう…。
…俺はボロ切れのように放り出された…。
けれど俺はどこかで夢を見ていたのだ。…いつか貴方が、俺を探し出し…俺と一緒になってくれることを…」

貴保子の美しい貌が哀しみで歪む。
「…許して…。私には家を捨てることは出来なかったのよ…」
と、言いかけ首を振る。
「…ううん。…違うわ…。私は怖かったの…。ほんの1日、逃避行しただけで、わかったわ。…何もかも捨てて貴方と生きてゆくことが怖かった…。貧しい生活に耐えられる自信がなかった…。
…いいえ…、貴族の生活を捨てることが…やはり私にはできなかったの…」

…泉…私を連れて逃げて…
貴方と一緒なら、どこまでも行けるわ。
貴方と二人で生きて行きたいの…。

夜汽車の中で、貴保子はそう泉に囁いた。
泉は貴保子を抱き寄せ…乗客もまばらな車内で初めてのくちづけをした…。

…どこまでも、行きましょう…。
貴保子様と二人なら…俺はどんな苦労も耐えてみせます…。
囁いた泉の手を、貴保子の美しい白い手が握り返した…。

…短い短い…蜜月だった…。
その夜汽車は天国ではなく、残酷な現実が終着駅であったのだ。

ほどなくして、鉄道警察が物々しく車内に踏み込み、二人は抵抗も虚しく捕らえられた。



/954ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ