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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第2章 初戀のひと
貴保子は駅で待ち構えていた屋敷の執事らに連れてゆかれ、すぐ様に家に引き戻された。
泉は形だけの取り調べののち、放り出された。
下僕はクビになり、屋敷には近づくことすら許されなかった。

「…私は…貴方に何もしてあげなかった…。
その気になれば、もう一度屋敷を抜け出して貴方を探し出し、共に生きることも出来た…。
でも、しなかった。…お父様が事業に失敗し、我が家は屋敷から調度品に至るまで全て差し押さえられたの。
…その危機を救ってくれたのが、野々宮だった。
彼は、我が家の借金を全て肩代わりしてくれた。
そして、私に済まなそうにこう言ったの。
…貴方をお金で買うような真似をしてしまい、申し訳ありません。
けれど、こんなことをしてまでも、私は貴方と結婚したいのです…と。
…貴方が私を嫌いなら、何もなさらなくていいから、私の妻にだけなって下さい…と。貴方の窮地を救うだけで、私は満足なのですから…と」

…あの人の良さそうな野々宮氏なら言いそうだと、暁は思った。
しかし、泉に対してはなんと言う残酷な話であろうか…。
彼に対して、彼自身が持たざる者であることを冷酷に示す言葉を、貴保子は告げたのだ。

泉の端正な貌は蒼白になる。
貴保子は全て承知していた。
この言葉が如何に彼を傷つけるのかを…。
しかし、彼女はそれを言わなくてはならなかったのだ。
自分の為ではない。
泉の為に…駆け落ちまでした女が如何に冷たい利己主義な女であるのかを、知らしめなくてはならなかったのだ。
「…私はそれを聞いた時に、私の初恋は終わらせて人生を生きなくてはならないと決意したの…。
…ううん。…そんな綺麗ごとではないわね。…皆は私を家を救う為に富豪な平民に嫁いだ孝行娘というけれど、それは違うわ。…私はもうお金がない生活に怯えたくなかったの…財産も地位もある男の側で守られて生きていきたかったの…。
貴方が命を賭けた女は取るに足らない…下らない女だったのよ…」
貴保子の白い頬には止めどなく涙が流れる。
胸が張り裂けそうに苦しげな声で泉が叫ぶ。
「…やめてください!…貴方はそんな方ではない…!」
「そんな女なのよ、泉。…私を憎んで…軽蔑して…許してくれなくていい。…でも…これだけは言わせて…」
…ごめんなさい。貴方の人生を滅茶苦茶にして、ごめんなさい…と、貴保子は絞り出すように詫びると頭を下げた。
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