この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第2章 初戀のひと
泉は、ゆっくりと石段に腰を下ろした。
夫妻は舞踏室に入っていった。

…弦楽四重奏が奏でる皇帝円舞曲が風に乗って流れてくる。
窓硝子越しに華やかに着飾った男女が手を取り合い優雅に踊る様子が見える。
おそらくその中に、野々宮夫妻もいるのだろう。

泉は華やかな舞踏室から目を背けるように背を向けた。

「…俺は伊勢谷家に勤めるようになってすぐ、他の下僕達に苛められたんです。…態度が生意気だとか、女にモテて調子に乗っているとか…」
…それはそうだろう。
これほどの美形なら、相当に目立つ存在だ。
屋敷のメイド達に人気があっただろうし、年かさの下僕らのやっかみも買うだろう。
「…うん…」
暁は静かに頷きながら、泉の傍に座る。
「…制服を隠されたり、靴を捨てられたり、やってもいないミスを俺のせいにされたり…日常茶飯事だったんです」
「…うん…」
月城に良く似た…しかし、とても傷つき易い繊細な横顔を見上げる。
「…ある日、それを見ていた貴保子様が、首謀者の下僕を叱って下さったんです。
…新人を虐めるなんて卑怯だ、私は卑怯な下僕には仕えて欲しくない…と」
先ほど見た美しい姿を思い出す。
辛い告白を毅然としていた貴保子…。
きっと真っ直ぐな、正直な気性の持ち主なのだろう。
「…素敵な方だね…」
「…それから、俺と貴保子様は時々言葉を交わすようになりました。同い年の俺たちはすごく気もあって…。
夜学に通いたいと思っていると話したら、旦那様に許可を取って下さって…。
俺のことをとても応援してくれたんです。…貴方なら、きっといつか弁護士になれるわ…と…」

…美しく聡明で優しい子爵令嬢と美男の志高い下僕…。
若い二人はすぐに恋に堕ちたのだろう。
「…俺は…貴保子様が好きになり、貴保子様も俺を好きと言ってくれました。…それからは…」
…さっきお話した通りです…と、苦しげに思い出すように言った。
「…そう…」
泉は不意に俯いた。
暫くして、掠れた…しかし、はっきりした声で彼は言った。
「…野々宮様…優しそうな方でしたね…。
…貴保子様をとても大切にされていましたよね…。
…貴保子様は、きっとお幸せになりますよね…」
語尾は震えていた。
…それを聞いた途端、暁は思わず泉を強く抱きしめていた。
「…君はいい子だね…すごく、すごく、いい子だ…」
小さく震えていた泉の身体が不意に強張る。



/954ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ