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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第2章 初戀のひと
…翌日の午前中に暁は自宅に帰った。
爽やかな五月晴れの空と風が心地よいはずなのに、暁の心は重く沈んでいた。

あれから…暁は生田に頭が痛むから部屋で休むとだけ伝え夜会を半ばで辞し、自室に閉じこもった。
暁が一人暮らしを始めても、暁の部屋はそのままの状態を保たれている。
「いつでも帰ってきなさい。ここはお前の家だからね」
礼也はそう言ってくれたのだ。

…泉とキスをしてしまい、月城と貌を合わせるかもしれない舞踏室には戻れなかったのだ。
…もし、このまま月城に会ったら…どんな貌をしたら良いか分からない…。
見送りに参加する勇気も持てなかった。
暁は罪の意識に怯えながら、眠りについた。

翌日は朝食も断り、慌ただしく屋敷を後にした。
…下僕の中に泉の姿を見つけることを恐れたのだ。
礼也はそんな暁を大層心配した。
医者を呼ぶと言って聞かないのを振り切るようにして帰宅した。

自宅に帰り、一階の居間に入る。
…今日は糸は夕方からだった。
不在なことにほっとして、ソファに沈み込むようにして座る。

…昨夜の記憶が生々しく蘇る。
…泉の若々しい腕の力…唇の熱さ…その舌は、不器用に…だが情熱的に暁の舌を弄り絡めてきた。

「…あんたが好きだ…!」
熱い叫び…激しいくちづけ…。

…何より罪なことは…
泉のくちづけで、感じてしまったことなのだ…。

…月城と良く似た美しい顔立ち…しかし…キスは全く違った。
抗ったとはいえ、途中からは若い男の情熱的な行為に流されるように、快楽を感じて微かに甘い声をあげてしまった自分がいた。

暁は淫らな自分を恥じた。
…一番、拒まなくてはならない相手に…自分は…よりにもよって、月城の弟とキスをして…あまつさえ、感じてしまった…!

暁は思わず貌を覆った。
…どうしよう…。

「…どうなさいました…?暁様…」
居間の入り口から低い美声が響いた。
暁は血の気が引くほど驚き、貌を上げた。

「…月城…なぜ…」
…入り口に月城が佇み、静かに微笑んでいた。
「本日は半休をいただきました。…昨夜、暁様のお姿が途中から見えなくなったのを大変心配いたしました。…生田さんに伺いましたら、頭痛が酷くなられてお休みになられたと…」
怜悧に澄んだ端正な貌には気遣わしげな表情が浮かぶ。
月城は暁の隣に静かに座り、暁の貌を優しく捉えた。
…思わず、身体が強張る。








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