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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第2章 初戀のひと

泉は英国王室で使われているものと同じ型だという白い豪華な乳母車を押しながら、中の薫をあやす。
…五月の庭園は日光浴をさせるのに丁度良い日差しと風が吹いている。
早咲きの薔薇が風に吹かれて、えも言われぬ香気を運んでくるのだ。
リューマチで脚が痛い乳母の福に代わり、薫を午後の日光浴に連れ出すのは最近では泉の役割だ。
薫は豪奢な乳母車の中で、きゃっきゃとはしゃいで喜ぶ。
薫は庭の散歩が大好きだ。
色白の貌に満面の笑みを浮かべ、一生懸命お喋りしている。
「…可愛いなあ…薫様は…。こんなに可愛い赤ちゃんは他にはいないな…」
泉は目を細めて、薫を抱き上げる。
薫はきゃらきゃらと笑いながら、手足をバタバタさせた。
クリーム色のロンパースに白いレースの帽子が良く似合っている。
泉は薫をうっとりと見つめる。
…薫様は日に日に美しくなるなあ…それに…益々暁様に似ていらして…。
礼也と暁は半分しか血が繋がっていないというのに、薫は日を追って暁に面差しが似て来るのだ。
「…本当に暁に似て美しい子だ!…男にしておくのは惜しいな」
と、言いながら可愛くて仕方ないように抱き上げるのは、礼也の日課になっているほどだ。
…練絹のように白い肌、長い睫毛、黒目勝ちの大きな瞳、小さな整った鼻筋、桜の花びらのような可憐な唇…。
…唇…唇…唇…。
…暁様の唇…柔らかくて、甘くて、淡雪のように儚げな唇…。
…薫がきょとんとした目をしながら、泉の貌を覗き込む。
泉ははっと我に帰る。
「…だ、だめだだめだだめだッ‼︎…か、薫様を見てそんな邪なことを考えるなんてッ‼︎俺は最低だッ‼︎」
ブンブン頭を振る泉の背後から、静かな低い美声が聞こえて来た。
「…何が邪なことだって…?」
はっと振り返ると蔓薔薇が伝う四阿を背に、月城が腕を組みながら佇んでいた。
…五月の庭園は日光浴をさせるのに丁度良い日差しと風が吹いている。
早咲きの薔薇が風に吹かれて、えも言われぬ香気を運んでくるのだ。
リューマチで脚が痛い乳母の福に代わり、薫を午後の日光浴に連れ出すのは最近では泉の役割だ。
薫は豪奢な乳母車の中で、きゃっきゃとはしゃいで喜ぶ。
薫は庭の散歩が大好きだ。
色白の貌に満面の笑みを浮かべ、一生懸命お喋りしている。
「…可愛いなあ…薫様は…。こんなに可愛い赤ちゃんは他にはいないな…」
泉は目を細めて、薫を抱き上げる。
薫はきゃらきゃらと笑いながら、手足をバタバタさせた。
クリーム色のロンパースに白いレースの帽子が良く似合っている。
泉は薫をうっとりと見つめる。
…薫様は日に日に美しくなるなあ…それに…益々暁様に似ていらして…。
礼也と暁は半分しか血が繋がっていないというのに、薫は日を追って暁に面差しが似て来るのだ。
「…本当に暁に似て美しい子だ!…男にしておくのは惜しいな」
と、言いながら可愛くて仕方ないように抱き上げるのは、礼也の日課になっているほどだ。
…練絹のように白い肌、長い睫毛、黒目勝ちの大きな瞳、小さな整った鼻筋、桜の花びらのような可憐な唇…。
…唇…唇…唇…。
…暁様の唇…柔らかくて、甘くて、淡雪のように儚げな唇…。
…薫がきょとんとした目をしながら、泉の貌を覗き込む。
泉ははっと我に帰る。
「…だ、だめだだめだだめだッ‼︎…か、薫様を見てそんな邪なことを考えるなんてッ‼︎俺は最低だッ‼︎」
ブンブン頭を振る泉の背後から、静かな低い美声が聞こえて来た。
「…何が邪なことだって…?」
はっと振り返ると蔓薔薇が伝う四阿を背に、月城が腕を組みながら佇んでいた。

