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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第2章 初戀のひと

…兄は、黒い執事の制服を一部の隙もなく整然と…しかし優雅に着こなしていた。
美しい黒髪はきちんと撫でつけられ、白皙の額に髪の一筋だけ落ちているのが禁欲的な色男の風情だ。
眼鏡の奥の瞳は怜悧で、感情はひとつも読み取れない。
彫像のような鼻筋、完璧な形の唇、美しい造形の顎…、
西洋人並みに背が高く、手足が長く頭が小さい。
…完璧な西洋の人形のような姿だ。
我が兄ながら、文句のつけようがない…。
泉は実の兄の美しさに呆れ果てるかのように見惚れていた。
しかし、月城はにこりともせずに泉に近寄る。
「生田さんには許可を貰った。お前に少し話がある」
「…な、なんだよ…」
泉は薫を抱いたままじりじりと後退りした。
薫の存在に気づいた月城は、ふいに柔らかい表情になり、そっと手を伸ばす。
思わず泉は薫を恐る恐る手渡した。
月城は意外な器用さで薫を抱いた。
人見知りする筈の薫だが、貌が似ているせいか月城に臆することなく、そのつぶらな瞳でじっと月城を見つめた。
月城は端正な眼を細める。
「…可愛いな…」
兄の言葉に初めて感情が篭る。
「…だろ?…薫様は世界で一番可愛い赤ちゃんなんだ」
泉は我が事のように自慢をした。
「…暁様に良く似ておられる…」
「…へ⁉︎」
月城がじろりと冷たい眼差しで泉を睨む。
「…何を驚くのだ?…薫様が暁様に似ておいでなのは周知の事実だろう?」
「…そ、そうだよな…!そうだった。…叔父さんと甥だから似て不思議はないよな!」
あはは…と空笑いをしていると、月城が大切そうに薫を乳母車の中に戻した。
そして、泉を向き直ると淡々と切り出した。
「…薫様もいらっしゃるから、話は手早く済ますつもりだ」
「…な、なんだよ…」
緊張の余り、声が掠れる。
…兄貴って…やっぱり凄い美形なんだな…。
関係ないことに関心する程、近くで見る月城は美しかった。
呑気な泉の思考を突如分断するかのような言葉が、月城の口から発せられた。
「…お前、昨夜暁様に何をした…?」
泉は恐怖の余り眼を見開き、声のない叫びを上げる。
「…なっ…⁉︎」
月城の表情は全く変わらない。
氷の彫像のようなひんやりとした美貌のまま、一歩泉に近づいた。
淡々とした声も変わらない。
「…昨夜の夜会には、野々宮ご夫妻が見えていた。野々宮貴保子様…。
…旧姓伊勢谷貴保子様…お前が駆け落ちしたお相手だ」
美しい黒髪はきちんと撫でつけられ、白皙の額に髪の一筋だけ落ちているのが禁欲的な色男の風情だ。
眼鏡の奥の瞳は怜悧で、感情はひとつも読み取れない。
彫像のような鼻筋、完璧な形の唇、美しい造形の顎…、
西洋人並みに背が高く、手足が長く頭が小さい。
…完璧な西洋の人形のような姿だ。
我が兄ながら、文句のつけようがない…。
泉は実の兄の美しさに呆れ果てるかのように見惚れていた。
しかし、月城はにこりともせずに泉に近寄る。
「生田さんには許可を貰った。お前に少し話がある」
「…な、なんだよ…」
泉は薫を抱いたままじりじりと後退りした。
薫の存在に気づいた月城は、ふいに柔らかい表情になり、そっと手を伸ばす。
思わず泉は薫を恐る恐る手渡した。
月城は意外な器用さで薫を抱いた。
人見知りする筈の薫だが、貌が似ているせいか月城に臆することなく、そのつぶらな瞳でじっと月城を見つめた。
月城は端正な眼を細める。
「…可愛いな…」
兄の言葉に初めて感情が篭る。
「…だろ?…薫様は世界で一番可愛い赤ちゃんなんだ」
泉は我が事のように自慢をした。
「…暁様に良く似ておられる…」
「…へ⁉︎」
月城がじろりと冷たい眼差しで泉を睨む。
「…何を驚くのだ?…薫様が暁様に似ておいでなのは周知の事実だろう?」
「…そ、そうだよな…!そうだった。…叔父さんと甥だから似て不思議はないよな!」
あはは…と空笑いをしていると、月城が大切そうに薫を乳母車の中に戻した。
そして、泉を向き直ると淡々と切り出した。
「…薫様もいらっしゃるから、話は手早く済ますつもりだ」
「…な、なんだよ…」
緊張の余り、声が掠れる。
…兄貴って…やっぱり凄い美形なんだな…。
関係ないことに関心する程、近くで見る月城は美しかった。
呑気な泉の思考を突如分断するかのような言葉が、月城の口から発せられた。
「…お前、昨夜暁様に何をした…?」
泉は恐怖の余り眼を見開き、声のない叫びを上げる。
「…なっ…⁉︎」
月城の表情は全く変わらない。
氷の彫像のようなひんやりとした美貌のまま、一歩泉に近づいた。
淡々とした声も変わらない。
「…昨夜の夜会には、野々宮ご夫妻が見えていた。野々宮貴保子様…。
…旧姓伊勢谷貴保子様…お前が駆け落ちしたお相手だ」

