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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第3章 秘密の花園
…薫がもっと小さな頃、暁に尋ねたことがある。
「暁おじちゃまは、どうしてけっこんしないの?すきなひとがいないの?おじちゃまはこんなに綺麗なのに…」
お母様やお父様みたいに、どうしてけっこんしないのかな?…。
おじちゃまなら、きっと美しいお姫様みたいな人とけっこんできるのに…。
小さな薫は不思議でたまらなかったのだ。

暁はその白い花のような美貌に困ったような…やや寂しげな微笑みを浮かべた。
そして、薫を膝に抱き上げながら答えた。
「…大好きな人はいるけれど…結婚できないんだ…」
「どうして?」
…好きな人がいるなら、なぜけっこんできないのかな。
薫は暁が大好きだったから、けっこんさせてあげたい!と心から思った。
…神様にお願いしたら、おじちゃまはけっこんできるのかな。

「…どうしても、無理なんだ。…でも、僕はこのままで充分幸せだからいいんだよ。
…でも…」
…薫は好きな人と結婚できますように…
と、暁は桜色の美しい唇を薫の額に押し当てた。


…あの時はすごく小さかったから、よくわからなかったけれど…
最近、薫は暁が言った意味が何となく分かるようになった…。

暁の視線の先には、必ずある人物の姿があることも…。

…今日、それを確かめられるかな…。
それは今の薫にとって、一番興味深いことだった。

「…さあ、薫。行こう」
薫の革靴の紐を完璧に結んでやり、その華奢だがしなやかで美しい姿を暁人はまぶしそうに見る。
…暁人が結ぶ靴紐はきつくもなく緩くもなくぴったりで、薫は少し機嫌が良くなった。
「ありがとう、暁人」
にっこり笑ってお礼を言う薫に、暁人は頬を染めて目を逸らしてしまった。
…やっぱり、変な奴…。

薫はやれやれと肩を竦めて歩き出す。
…何にせよ、退屈な午後の始まりだ…。
自室のドアを押し開けると、濃い初夏の陽光が瞳を打つ。
薫は白くほっそりとした手を額にかざすと、廊下に向って足を踏み出した。





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