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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第3章 秘密の花園
屋敷の大階段をだらだらと降りる。
なるべく時間を引き伸ばす為だ。
…ああ、何でこんな暑い日にガーデンパーティーなんだよ。
大人の考えることは分からない。
薫は社交が大嫌いだ。
テーブルマナーや会話について、ナニーや家庭教師、そして誰よりも怖い母の光にやいのやいの言われるのが我慢ならないのだ。
テーブルマナーはともかく、なぜ楽しくもないのに楽しい振りをしなくてはならないのか、興味もない話をさも興味がある振りをしなくてはならないのか…
皆目分からない。
…僕は大人になったら、絶対にお茶会も夜会も出ないぞ。
軽井沢の別荘にずっと引き込もってカイザーと暮らすんだ。

ドイツシェパードのカイザーは薫が三歳の時にドイツ公使邸から父が貰い受けて来た仔犬だった。
見た目はとても怖いが、性格はセントバーナードより優しく…そしてとても臆病だ。
「…シェパードだから頼もしい番犬になると思ったのに…この子と来たら、庭に鳩が来ても怯えて部屋に入ってしまうんだから…」
光は呆れたように溜息を吐いたが、薫はそんな情けないカイザーが大好きなのだ。
カイザーは余計なことは何も言わず、薫の横に来て鼻先を擦り寄せて来る。
カイザーといると、嫌なことや哀しいことは全て忘れられる。

…今日はお客様のところにべったりらしいな。
朝から姿が見えない。
カイザーはシェパードの癖に主人以外にも簡単に心を許す。
「…この子と来たら、初めて来た庭師にも尻尾を振って付いて行こうとするんだから…全く…。…本当にシェパードなのかしらね。…カイザーなんて名前負けだわ」
光は動物も父のように強くて頼り甲斐があって気高いものが好きなのだろう。
…だからお母様とは気が合わないんだ…。
美しくて強くて賢い母と薫は親子と思えないほどに性格が合わない。
貌を合わせば喧嘩になってしまうので、それもあって社交嫌いになったのだ。
…どうせ、今日も煩く言われるんだろうな…。
益々足取りが重くなる薫に、背後の暁人がふと口を開く。

「…あのさ、薫…。さっきのメイドの話だけどさ…」
「うん?」
階段を降りながら、暁人は真顔で尋ねる。
「…胸を触らせられてさ…どう思った…?」
薫は綺麗な眉を顰める。
「…気持ち悪いに決まっているだろ!思いださせるなよな!」
「…そうか…。ごめんね…」
暁人はなぜかほっとしたように息を吐いたのだ。






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