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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第3章 秘密の花園
サロンでは皆が、グランドピアノの前の思い思いの場所に座り、ゆったりと綾香の唄を楽しんでいる。

…綾香は北白川伯爵のいわゆるご落胤だ。
浅草の小さなカフェで歌手をしていた所、異母姉妹の梨央が彼女を探し出し、それからは実の姉妹以上に仲良く助け合い、愛し合って暮らしている。
二人の姿はまるで美しいお伽話のようだ。

…妹の梨央はかつては礼也の婚約者であった。
理由は分からないが礼也は梨央と婚約解消し、そののち梨央の従姉妹の光と結婚した。
…お母様も梨央様も全く蟠りがないみたいに仲良しだ。
お父様は今もお二人の後見人を引き受けているし…不思議な関係だな…。
北白川家と縣家は奇妙な因縁で結ばれた家みたいだ。
薫は梨央も綾香も好きだった。

梨央は今年三十半ばを迎えた筈だが、驚くほどに若々しい。
綾香の華やかな美貌は、どこか光に似ているが…光より話が分かるし、とても親しみやすい。

薫はサロンをぐるりと見渡した。
…しかし今日は…

…皆と少し離れたソファに、優雅に…少し物憂げに座る暁がいた。
長い脚を組み、肘掛けに軽く肘をつきながら、綾香の唄を聞いていた暁はそっと視線を巡らせると、壁際に待機している月城を見つめた。

月城は暁を見ると、その端正な貌に微かな微笑みを浮かべた。
暁にだけ向けた温かい眼差しだった。
暁は幽かに頬を染め、その黒い瞳を潤ませた。

…部屋には綾香が唄う異国の愛の唄が流れる。
伸びやかで…明るく、その場にいる人の心を抱きしめるような優しい歌声だ。
梨央の繊細なピアノの伴奏は、綾香の唄を決して邪魔せずに寧ろ引き立たせるのだった。

…美しき夜、恋の夜…
…時は過ぎ行く。愛の日々は、戻ることなく…

あの衝撃的な場面を見たせいだろうか…。
薫は暁の貌をまともには見られない。

…その美しい横顔には、薫の未知の官能の薫りを纏わせていたことに…薫は初めて気づいたのだ…。

暁と月城の視線は濃厚に絡み合い、二人だけに分かる愛の言葉を能弁に語っていた。

薫の隣に座った暁人が、吸い寄せられるかのように暁の妖艶な貌に釘付けになる。
露骨な注視に、薫は肘をつついて暁人を諌めた。
薫に眉を顰められ、暁人は貌を赤らめた。
「…あんまり見るとバレるだろう…」
釘を刺して暁を見る。

…暁は、まだ愛しい恋人を夢見るような眼差しで見つめているのだった…。



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