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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第3章 秘密の花園

薫は素足で庭園に降りる。
芝生に絡まる夜露が火照った脚に心地良い。
足音を忍ばせて、石畳みの小径を静かに歩く。
…噴水の石段に腰掛け、夜空を見上げている泉をそっと見つめる。
泉は執事の制服のまま、ジャケットを脱いで白いシャツを腕捲りしていた。
…振り仰いでいた貌を元に戻すと、ポケットから煙草と燐寸を取り出すと、唇に咥え火を点けた。
泉の彫りの深い美しい横顔を橙色の灯りがやや幻想的に照らしだす。
…泉…煙草吸うんだ…。
薫は少し意外に思った。
人の気配を感じたのか、泉がふと振り返る。
「…薫様…!」
見咎められたばつの悪さから薫は肩を竦める。
…が、薫は誰よりも…恐らく両親よりも…泉に一番に甘えているので、わざと子どもっぽくぱたぱたと小走りで駆け寄る。
そして、その白いシャツの胸に飛び込んだ。
…泉のシャツからは、今まで嗅いだことがない煙草の匂いがした…。
突然飛び込んできた薫を難なく抱き留める。
「…薫様…裸足ではありませんか…」
呆れたように薫の白く華奢な素足を見下ろす。
「暑いからいいんだ」
泉はそれ以上は咎めずに、苦笑しながらも薫が可愛くて仕方がないように見つめ、自分の隣の石段に抱き上げて座らせた。
…泉といると、母に喧しく言われるように、しっかりしなくてもいいし、兄らしい振舞いをしなくてもいいので心から寛げる。
まだ薫が小さな時には、母に叱られるといつも泣きながら階下に駆け下り、泉の部屋に飛び込んだ。
泉はいつも優しく薫を抱き留めて、決まってこう慰めてくれた。
「薫様、どうなさいました?」
「おかあちゃまにしかられた」
「何をなさったのですか…?」
「…おかあちゃまの香水を、全部カイザーにかけてあげたの。…カイザー、お風呂がきらいだから…いい匂いがしたほうがおかあちゃまがよろこぶと思って…」
泉は優しく笑い、薫を抱きしめた。
「…ご一緒に謝りにまいりましょう…泉も奥様にお詫びいたしますから…」
「…うん…」
…懐かしい話だ。
流石にもう階下の泉の部屋に駆け込むことはない。
もう12歳だし、母に叱られても平気だからだ。
…けれど時々、泉の温かい胸が堪らなく懐かしくなることがある…。
「…泉、煙草吸うんだね?」
薫は黒目勝ちの大きな瞳で泉を見上げた。
泉は少し悪戯っぽく笑った。
「…生田さんには内緒ですよ。…生田さんは喫煙者を好まれませんからね…」
芝生に絡まる夜露が火照った脚に心地良い。
足音を忍ばせて、石畳みの小径を静かに歩く。
…噴水の石段に腰掛け、夜空を見上げている泉をそっと見つめる。
泉は執事の制服のまま、ジャケットを脱いで白いシャツを腕捲りしていた。
…振り仰いでいた貌を元に戻すと、ポケットから煙草と燐寸を取り出すと、唇に咥え火を点けた。
泉の彫りの深い美しい横顔を橙色の灯りがやや幻想的に照らしだす。
…泉…煙草吸うんだ…。
薫は少し意外に思った。
人の気配を感じたのか、泉がふと振り返る。
「…薫様…!」
見咎められたばつの悪さから薫は肩を竦める。
…が、薫は誰よりも…恐らく両親よりも…泉に一番に甘えているので、わざと子どもっぽくぱたぱたと小走りで駆け寄る。
そして、その白いシャツの胸に飛び込んだ。
…泉のシャツからは、今まで嗅いだことがない煙草の匂いがした…。
突然飛び込んできた薫を難なく抱き留める。
「…薫様…裸足ではありませんか…」
呆れたように薫の白く華奢な素足を見下ろす。
「暑いからいいんだ」
泉はそれ以上は咎めずに、苦笑しながらも薫が可愛くて仕方がないように見つめ、自分の隣の石段に抱き上げて座らせた。
…泉といると、母に喧しく言われるように、しっかりしなくてもいいし、兄らしい振舞いをしなくてもいいので心から寛げる。
まだ薫が小さな時には、母に叱られるといつも泣きながら階下に駆け下り、泉の部屋に飛び込んだ。
泉はいつも優しく薫を抱き留めて、決まってこう慰めてくれた。
「薫様、どうなさいました?」
「おかあちゃまにしかられた」
「何をなさったのですか…?」
「…おかあちゃまの香水を、全部カイザーにかけてあげたの。…カイザー、お風呂がきらいだから…いい匂いがしたほうがおかあちゃまがよろこぶと思って…」
泉は優しく笑い、薫を抱きしめた。
「…ご一緒に謝りにまいりましょう…泉も奥様にお詫びいたしますから…」
「…うん…」
…懐かしい話だ。
流石にもう階下の泉の部屋に駆け込むことはない。
もう12歳だし、母に叱られても平気だからだ。
…けれど時々、泉の温かい胸が堪らなく懐かしくなることがある…。
「…泉、煙草吸うんだね?」
薫は黒目勝ちの大きな瞳で泉を見上げた。
泉は少し悪戯っぽく笑った。
「…生田さんには内緒ですよ。…生田さんは喫煙者を好まれませんからね…」

