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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第3章 秘密の花園

泉は美味そうに煙草を吸うと、口元に笑みを浮かべた。
その笑みは薫が今まで見たことがないような…大人の男の色気が滲んだものだった。
…あれ…泉って、こんな感じだっけ…?
薫は眼を見張った。
…泉の唇って…綺麗だな…。形が良くて口角が上がっていて凛々しくて…でも少し色っぽい…。
月城の唇に…似ている…。
…昼間のキスの光景が蘇る。
ぼんやり見上げていると、泉と眼が合った。
「…どうなさいましたか?」
泉のことは何でも知っている。
薫が生まれた時からずっと側にいるからだ。
赤ん坊のころから人見知りをする薫は、ナニーよりも泉に育てられたと言っても過言ではなかった。
泉が抱くとぴたりと泣き止むのだ。
少し大きくなると泉、泉と一日中追いかけ回していた。
泉は夜間の法科専門学校に通い、司法試験も二度目の受験で合格したのだが、結局弁護士にはならなかった。
…薫が屋敷を辞めるかもしれないとメイドから聞き、引きつけを起こすほどに泣き喚き、三日三晩高熱を出してしまったのだ。
真っ赤な顔をしながら、泉の手を握り締め薫は
「…いっちゃいやだ、いやだよ…せん…」
と、譫言のように繰り返した。
泉は薫を見つめながら微笑んだ。
「どこにもまいりません。私はずっと薫様のお側にいます…だからご安心ください…」
そう答え、きっぱりと弁護士への道は諦めたのだ。
今は副執事として、生田からの信頼も勝ち得るほど完璧に仕事をこなしている。
泉自身も生き生きと仕事をしているように見える。
「うちの夜会やお茶会には、泉目当てのお嬢様が増えたわね。人気者の副執事さん」
光が泉に悪戯っぽく話しかけているのを聞いたことがある。
…けれど…
…泉は後悔していないのだろうか…。
僕の為に…弁護士の道を諦めたのに…。
少しだけ大人になった薫は時々、不安になる。
「…あのさ…泉にはさ…恋人はいる…?」
聞いてしまってから薫は、何でそんなことを聞いたのだろうと自分でも驚く。
泉は思わず唇から咥えていた煙草を取り落とした。
「…ど、どうされたのですか?…急にそのような…」
「い、いいじゃないか。聞きたいんだから!」
恥ずかしさの余り、癇癪を起こす。
泉はふっと息を吐き、優しい兄のような口調で答えた。
「…おりませんよ…」
…良かった…。
…と、咄嗟に安堵し…しかし、安堵した自分に再び動揺する。
その笑みは薫が今まで見たことがないような…大人の男の色気が滲んだものだった。
…あれ…泉って、こんな感じだっけ…?
薫は眼を見張った。
…泉の唇って…綺麗だな…。形が良くて口角が上がっていて凛々しくて…でも少し色っぽい…。
月城の唇に…似ている…。
…昼間のキスの光景が蘇る。
ぼんやり見上げていると、泉と眼が合った。
「…どうなさいましたか?」
泉のことは何でも知っている。
薫が生まれた時からずっと側にいるからだ。
赤ん坊のころから人見知りをする薫は、ナニーよりも泉に育てられたと言っても過言ではなかった。
泉が抱くとぴたりと泣き止むのだ。
少し大きくなると泉、泉と一日中追いかけ回していた。
泉は夜間の法科専門学校に通い、司法試験も二度目の受験で合格したのだが、結局弁護士にはならなかった。
…薫が屋敷を辞めるかもしれないとメイドから聞き、引きつけを起こすほどに泣き喚き、三日三晩高熱を出してしまったのだ。
真っ赤な顔をしながら、泉の手を握り締め薫は
「…いっちゃいやだ、いやだよ…せん…」
と、譫言のように繰り返した。
泉は薫を見つめながら微笑んだ。
「どこにもまいりません。私はずっと薫様のお側にいます…だからご安心ください…」
そう答え、きっぱりと弁護士への道は諦めたのだ。
今は副執事として、生田からの信頼も勝ち得るほど完璧に仕事をこなしている。
泉自身も生き生きと仕事をしているように見える。
「うちの夜会やお茶会には、泉目当てのお嬢様が増えたわね。人気者の副執事さん」
光が泉に悪戯っぽく話しかけているのを聞いたことがある。
…けれど…
…泉は後悔していないのだろうか…。
僕の為に…弁護士の道を諦めたのに…。
少しだけ大人になった薫は時々、不安になる。
「…あのさ…泉にはさ…恋人はいる…?」
聞いてしまってから薫は、何でそんなことを聞いたのだろうと自分でも驚く。
泉は思わず唇から咥えていた煙草を取り落とした。
「…ど、どうされたのですか?…急にそのような…」
「い、いいじゃないか。聞きたいんだから!」
恥ずかしさの余り、癇癪を起こす。
泉はふっと息を吐き、優しい兄のような口調で答えた。
「…おりませんよ…」
…良かった…。
…と、咄嗟に安堵し…しかし、安堵した自分に再び動揺する。

