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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第3章 秘密の花園
泉は真剣な貌をして、薫のおでこに手を当てる。
「…薫様、お熱がありますか?今日のガーデンパーティーで日光に当たりすぎましたか?」
薫は憤然と泉の手を振り払う。
「違うよ‼︎おかしくなんかなってないってば‼︎」
「ではなぜ急に?」
「…そ、それは…」

…昼間、暁と月城がキスしているところを見たからだとは言えない。
…けれど、薫はどうしてもキスをしてみたかった。
それも、泉としたかったのだ。

「…べ、別に理由なんかどうでもいいだろう!…キスしてよ。泉はなんでも叶えてくれたじゃないか!キスしてくれてもいいじゃないか!」
薫の癇癪持ちとめちゃくちゃな理論には慣れている泉は暫く薫を見つめ、溜息を吐いた。
「…薫様はキスの意味がお分かりですか…?」
「分かっているさ!好きな人同士でするんだろう?」
「…唇のキスは愛しあっている人同士のものですよ…。そんなに無闇に誰彼構わずにするものではありません」
…珍しく諌めるような厳しさを含んだ声色だ。
薫はびくりと肩をふるわせる。
「…」
黙ってしまった薫に、泉は口調を和らげる。
「…薫様。薫様に心から愛する方がお出来なられたら、その方となさいませ」

薫は暫く押し黙っていたがやがて美しい貌に怒りの色を漲らせ、言い放った。
「…分かった。もういい!…泉がしてくれないのなら、他の人にしてもらう!」
「へ⁈」
薫は泉に背を向けて、ガツガツ歩き出す。
「…僕にキスしたいヤツなんか沢山いるんだからな!…学院の鷹司さんとか!…いざとなったら暁人にしてもらうし!」
泉は慌てて薫を追いかける。
「ちょっ…!ちょっとお待ちください!薫様!」
薫のか細い腕を掴み、しゃがみ込んで溜息を吐く。
「…薫様は私の話をちゃんと聞いて下さっていたのですか…?」
「うるさい!もう泉には頼まないよ!…他の人にして…」
不意に薫の肩が、痛いほど捕まれる。
泉の怒り眼差しが薫を捉えた。
「…他の方になど、薫様は触れさせません」
胸がどきどきするって、こういうことなんだな…と、薫は泉の怖いくらいに真っ直ぐな眼差しを受け止める。
「…薫様は、私が大切にお育てした宝物です…」
「…泉…」
身体がふわりと浮き上がるような心地になる。
…そうだ…僕は…泉のこんな言葉を聞きたかったんだ…。
薫は長く濃い睫毛を瞬かせ、泉を見上げた。
「…じゃあ…泉がキスしてよ」



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