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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第3章 秘密の花園
「…お母様は僕が嫌いなんだ」
軽井沢に向かう汽車の一等室の中で、料理長の心尽しのローストビーフのサンドイッチをぱくつきながら、薫は暁に零した。
「菫ばっかり可愛がるし、僕の顔を見ればお小言しか言わない」

向かい側の席に座る暁は夏のオフホワイトのスーツに紺色のリボンタイを締め、まるで王子様のような優美な出で立ちだ。
暁は憤然とする薫を優しく見つめる。
「…僕はそう思わないけれどね。…むしろ、お母様は薫のことを誰よりも心配しているのだと思うよ」
「嘘だ。僕のことが嫌いだから怒ってばかりいるんだ!」
「君に良い子になって欲しいから、厳しくしているんだと思うよ」
「…ほんとかなあ…」
薫の尖らせた可愛らしい唇の端に付いているパンの欠片を取ってやり、口に運びながらしみじみと呟く。
「…君は幸せな子どもなんだよ。…素晴らしい両親がいて愛されて育って…可愛い妹がいて、立派な屋敷に暮らして、たくさんの使用人に傅かれ…良い友人がいて、一流の教育を受けられて…。君は僕がなりたかった子どもそのものだ…」
暁の美しい瞳が少し切なげに寂しげに薫を見つめた。

薫は思わず、口を噤む。
暁が父、礼也の腹違いの弟ということは知っていた。
暁の母は屋敷に勤めていたメイドで、暁は貧しい長屋に育ち、14歳の時に事情を知った礼也に引き取られたそうだ。
だから暁はとても礼也を慕っているし、感謝している。
礼也も暁を可愛がり、大切にしている。
二人の関係を薫はとてもいいな…と思う。

暁は幼少期の貧しい暮らしなど微塵も感じさせないほど、今は社交界の華と謳われるような美しい貴公子だ。
類稀な美貌だけではなく知性、教養、人柄も申し分ない。
…自分なら学校も行けない生活をしていたら、きっとめげて諦めていた筈だ…。
そう言ったことがある。
「…全ては君のお父様のお陰だ。お父様が僕を救って、育てて下さったから今の僕がいる」
暁は、そうきっぱりと答えたのだ。

「…君は幸せな子どもだよ。…それを忘れてはいけない」
じっと自分を見つめる薫を、暁は光差し込む窓辺に優雅に肘をつきながら微笑った。


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