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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第3章 秘密の花園
玄関ホールに駆け込むと、そこには夏服の執事の制服を着こなした泉が、美しい立ち姿で佇んでいた。
早く会いたかったのに、薫は泉の前に立つと急に恥ずかしくなって、つい仏頂面になってしまう。

泉はそんな薫を気にもせずに、温かく笑った。
「薫様、お元気でいらっしゃいますか?」
嬉しいのに素直になれない。
「…うん…」
泉は、水滴が滴る薫の髪を見てポケットからハンカチを取り出し、優しく拭いてやる。
「びしょ濡れではありませんか。…水遊びをなさったのですか?…お風邪を召したら大変です」
追いかけてきた暁人に、じっと見られているのを感じ薫は恥ずかしくて、泉の手を邪険に振り払う。
「平気だってば」
泉の黒い瞳が真っ直ぐに薫を捉える。
…あのキスの夜から、こんなに近くで見つめ合うのは初めてだ。

「…あの…自分で拭けるから…」
つんけんした自分が恥ずかしくて、薫はやや口調を改めて泉からハンカチを受け取り、髪を拭く。
「…何か用?」
…まさか、自分に逢いに来た訳ではないだろう…。

すると、泉が片手に下げたバイオリンケースを薫に見せる。
「お忘れものですよ」
「…あ…」

薫は大嫌いな蛇を見たように顔を顰めた。
…ガルネリのバイオリン…
薫のバイオリンだ。
…ちっとも欲しくないのに、光が去年の薫の誕生日プレゼントに贈ったものだ。

「貴方にはまだ勿体無いような一流品なのよ。
…でも、良い楽器を持つと音楽に対する意識が変わるでしょう。」
そう言いながら、光はまるで下賜するように薫にバイオリンを手渡した。

光の母はバイオリンの名手だ。
その腕は玄人はだしで薫も三歳から習わされていた。
しかし、薫はバイオリンが嫌いだ。
嫌いな気持ちがそのまま演奏に表れるので、上手くもない。
週に二日出稽古に来るバイオリン教師の他に、光が毎日薫の稽古を見る。
薫が弓を鳴らし始めると、光の美しい眉が見る見る内に顰められる。
それを見るのが大層嫌で、薫はわざと鳥肌が立つような悪音でバイオリンを弾き、光に激怒される…というのが、日々の習いであった。

「奥様が縣様のところでもお稽古を欠かさないようにとのご伝言です」
薫は綺麗な唇をへの字に曲げる。
「折角遊びに来ているのに…!」
泉が優しく声をかける。
「一日に三十分でも良いのです。少しでもお稽古されたら奥様はお怒りになりませんよ」
「…そうかなあ…」




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