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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第3章 秘密の花園

「…お母様は貴方をとても心配していらっしゃるわ。…それは分かって差し上げてね」
絢子が気遣わしげな表情で薫の顔を覗き込んだ。
絢子には悪いがそれはない…と、薫は思った。
お母様は、不出来な息子が腹立たしいのだ。
だからいつも怒ってばかりいるのだ。
「絢子小母様は優しいですね。…あ〜あ、絢子小母様が僕のお母様だったらなあ」
わざと子どもっぽく伸びをする。
絢子は目を細めて薫を見る。
「…じゃあ、うちの子どもになる?」
「なるなる!なりたいです!」
薫ははしゃいでソファから立ち上がる。
絢子は薫の貌をそっと、その白い指先で撫でる。
…まるで何かを確かめるように…。
「…薫さんがうちの子どもになったら…春馬さんは喜ぶわ…」
「…え…?」
絢子のその言葉はどきりとするほどに寂しげで、その瞳は見たことがないほどに孤独の色を帯びていた。
「…あの…小母様?」
…絢子に声をかけようとしたその時、部屋のドアが勢いよく開かれた。
「薫!お稽古、済んだ?」
薫は両手を広げてみせた。
「弾いてもいないさ」
「やっぱりね」
二人は同時に吹き出した。
絢子も可笑しそうに笑った。
その貌には先ほどの寂しさや孤独感はすっかり消え失せていて、薫はほっとした。
絢子は快活にソファから立ち上がり、二人に告げる。
「じゃあ、明日はお稽古しましょうね。
…もう少ししたら、春馬さんがドライブに連れて行ってくださるって…。二人ともお着替えをしておいてね」
二人は飛び上がり、喜ぶ。
大紋は車好きだ。眼を見張るような最新の舶来車がガレージに並んでいるのを薫はいつもうっとりと眺めていた。
「カイザーも連れて行っていい?」
絢子は優しい表情で頷いた。
「勿論だわ」
静かに部屋を退出した絢子を見送りながら
「…いいなあ…暁人は。あんなに優しいお母様がいて…」
と、何百回も繰り返した言葉を繰り返す。
絢子が気遣わしげな表情で薫の顔を覗き込んだ。
絢子には悪いがそれはない…と、薫は思った。
お母様は、不出来な息子が腹立たしいのだ。
だからいつも怒ってばかりいるのだ。
「絢子小母様は優しいですね。…あ〜あ、絢子小母様が僕のお母様だったらなあ」
わざと子どもっぽく伸びをする。
絢子は目を細めて薫を見る。
「…じゃあ、うちの子どもになる?」
「なるなる!なりたいです!」
薫ははしゃいでソファから立ち上がる。
絢子は薫の貌をそっと、その白い指先で撫でる。
…まるで何かを確かめるように…。
「…薫さんがうちの子どもになったら…春馬さんは喜ぶわ…」
「…え…?」
絢子のその言葉はどきりとするほどに寂しげで、その瞳は見たことがないほどに孤独の色を帯びていた。
「…あの…小母様?」
…絢子に声をかけようとしたその時、部屋のドアが勢いよく開かれた。
「薫!お稽古、済んだ?」
薫は両手を広げてみせた。
「弾いてもいないさ」
「やっぱりね」
二人は同時に吹き出した。
絢子も可笑しそうに笑った。
その貌には先ほどの寂しさや孤独感はすっかり消え失せていて、薫はほっとした。
絢子は快活にソファから立ち上がり、二人に告げる。
「じゃあ、明日はお稽古しましょうね。
…もう少ししたら、春馬さんがドライブに連れて行ってくださるって…。二人ともお着替えをしておいてね」
二人は飛び上がり、喜ぶ。
大紋は車好きだ。眼を見張るような最新の舶来車がガレージに並んでいるのを薫はいつもうっとりと眺めていた。
「カイザーも連れて行っていい?」
絢子は優しい表情で頷いた。
「勿論だわ」
静かに部屋を退出した絢子を見送りながら
「…いいなあ…暁人は。あんなに優しいお母様がいて…」
と、何百回も繰り返した言葉を繰り返す。

