この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第3章 秘密の花園

暁と月城は今まで公の場所で会ったり、出かけたことは殆どない。
東京では人目がある為に、気を遣いながら隠れて会うことしか出来ない。
上流階級の世界では、階級が全てだ。
男爵家の子息と執事が一緒に外出したり、食事したりなど、もし彼らを知る人達に見られたら不審に思われてしまうからだ。
だから休日に馬術倶楽部で共に馬に乗ることがせいぜいだった。
控えめな暁は、そのことに不満や我儘を言ったことは一度もない。
月城はそれが却って不憫であった。
…暁の喜ぶ貌が見たい。普通の恋人同士のように外で心置きなく会いたい…。
月城は告げた。
「…明日、追分のカサブランカというバーに9時に来てください」
「…え?…でも…」
心配そうに美しい瞳で月城を見つめる暁に微笑む。
「…大丈夫です。…お待ちしております」
「…素敵なバーだね…」
店内を見渡しながら、暁は上擦ったような声で言った。
「そうだろう。…ここのオーナーの藤木さんは趣味がいいんだ。暁、何を飲む?」
月城の言葉遣いが敬語ではなく対等なのが嬉しくもありどこか気恥ずかしい。
「…森が決めて…」
だからつい、甘えた口調になってしまう。
月城は甘やかすような優しい眼差しを暁に投げかけ、カウンターのオーナー、藤木に告げる。
「じゃあ、暁にミモザで…私にはギムレットを…」
藤木は物静かに答える。
「…かしこまりました」
藤木が見事な手捌きで、シェーカーを振るのを暁は一瞬見惚れ、それから月城にそっと尋ねる。
「…ねえ、この店は…大丈夫なの?」
月城は暁を見つめながら頷く。
「…藤木さんは狭霧さんの古い友人なんだ。この店も狭霧さんに紹介していただいた。…私達のことも全て知っている…」
暁が藤木を見ると、彼は控えめに微笑んだだけで何も言わなかった。
暁はほっとしたように表情を和らげた。
「…良かった…」
月城はカウンターに置かれた暁の白くほっそりした手をそっと握りしめた。
「…暁と二人でゆっくり飲みたかった…。普通の恋人同士のように…」
「…森…」
「すまないね。…連れて来てあげるまでに何年もかかってしまった…」
詫びる月城に首を振る。
「そんなことない。嬉しい…すごく…」
しっとりと潤んだ射干玉色の瞳が月城を見上げる。
…カウンターに色鮮やかなミモザとギムレットが置かれた。
二人はグラスを手に取り、そっと乾杯をする。
東京では人目がある為に、気を遣いながら隠れて会うことしか出来ない。
上流階級の世界では、階級が全てだ。
男爵家の子息と執事が一緒に外出したり、食事したりなど、もし彼らを知る人達に見られたら不審に思われてしまうからだ。
だから休日に馬術倶楽部で共に馬に乗ることがせいぜいだった。
控えめな暁は、そのことに不満や我儘を言ったことは一度もない。
月城はそれが却って不憫であった。
…暁の喜ぶ貌が見たい。普通の恋人同士のように外で心置きなく会いたい…。
月城は告げた。
「…明日、追分のカサブランカというバーに9時に来てください」
「…え?…でも…」
心配そうに美しい瞳で月城を見つめる暁に微笑む。
「…大丈夫です。…お待ちしております」
「…素敵なバーだね…」
店内を見渡しながら、暁は上擦ったような声で言った。
「そうだろう。…ここのオーナーの藤木さんは趣味がいいんだ。暁、何を飲む?」
月城の言葉遣いが敬語ではなく対等なのが嬉しくもありどこか気恥ずかしい。
「…森が決めて…」
だからつい、甘えた口調になってしまう。
月城は甘やかすような優しい眼差しを暁に投げかけ、カウンターのオーナー、藤木に告げる。
「じゃあ、暁にミモザで…私にはギムレットを…」
藤木は物静かに答える。
「…かしこまりました」
藤木が見事な手捌きで、シェーカーを振るのを暁は一瞬見惚れ、それから月城にそっと尋ねる。
「…ねえ、この店は…大丈夫なの?」
月城は暁を見つめながら頷く。
「…藤木さんは狭霧さんの古い友人なんだ。この店も狭霧さんに紹介していただいた。…私達のことも全て知っている…」
暁が藤木を見ると、彼は控えめに微笑んだだけで何も言わなかった。
暁はほっとしたように表情を和らげた。
「…良かった…」
月城はカウンターに置かれた暁の白くほっそりした手をそっと握りしめた。
「…暁と二人でゆっくり飲みたかった…。普通の恋人同士のように…」
「…森…」
「すまないね。…連れて来てあげるまでに何年もかかってしまった…」
詫びる月城に首を振る。
「そんなことない。嬉しい…すごく…」
しっとりと潤んだ射干玉色の瞳が月城を見上げる。
…カウンターに色鮮やかなミモザとギムレットが置かれた。
二人はグラスを手に取り、そっと乾杯をする。

