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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第3章 秘密の花園
「…優しい貴方が結婚式で新婦を捨てて、僕を選ぶ訳はない…。分かっていました…。でも、僕はその可能性を密かに期待していたのかも知れません…」
「…暁…僕は…」
苦しげな大紋に、暁は慰めるように微笑む。
「…貴方が悪いのではありません。貴方は優しい方なのです。…僕を愛してくださりながら、絢子さんを見捨てることはできない…。それが貴方の残酷な優しさなのです…」
「…暁…」
「…春馬さん、貴方はあの日にご自分から僕の手を離されたのです…」

暁は改めて大紋を見つめる。
すらりとした長身に映える夏服の乗馬ジャケット、黒いネクタイ、白い乗馬ズボン、黒いブーツ。
…かつて暁が憧れ、慕い、愛した男の姿がそこにはあった。
変わらない端正で美しい姿で…。
だが、歳月は人の心を変えてゆくのだ…。

「…それに貴方が愛しているのは、あの頃の僕ではありませんか?…貴方の話に出てくるのは全て過去の僕だ。今の僕はそこにはいない。
…ねえ、春馬さん。僕は生きてきたのですよ。貴方と別れて、苦しんで、泣いて、もがいて…それでも生きてきたのです…。そんな僕を貴方は見ていますか…?
…想い出の中の僕を愛されても、僕には迷惑です」
驚くほどに冷静な声に自分でも驚く。
はっとしたような大紋の貌を見て、暁は静かに微笑う。
「…月城は…そんな僕をずっと見て、支えて、愛してくれたのです…」
…彼がいなかったら、今の自分はここにはいなかった。
今もそうだ。彼がいなかったら生きていられないほどに、彼を愛している。

苦し気な声を絞り出して、大紋は尋ねる。
「…彼を愛しているのだね…僕よりも…」
「はい。…月城を愛しています…僕は彼より他に何もいらないのです」
一部の迷いもなく、暁は答えた。
真っ直ぐな瞳が大紋を捉える。

…その少しの嘘もない瞳に、大紋は寂し気に微笑った。
「…そうか…。そうかも知れないな…。僕が愛しているのはあの頃の君で…僕はひたすら君との美しい想い出に耽溺していたかったのかも知れない…」
…すまない…すまなかった…いつまでも君を苦しめて…。
そう苦し気に詫びると、大紋は暁を抱きしめた。
暁は彼に赦しを与えるように慈しみの抱擁をする。

…不意に、背後から小枝が砕ける音が響いた。
はっと振り向いた暁の眼に飛び込んできたのは、西洋人形のように端正だが無機質なまでに無表情で佇む月城の姿であった。



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