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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第3章 秘密の花園

…誰かが…泣いている…?
暁は温かい涙の雫が貌や手に降り注ぐ夢を見て、ふと目覚めた。
…朝陽が広い窓一面から差し込んでいた。
きらきらしい一片の曇りもない爽やかな高原の朝だ。
一瞬、自分の状況が分からずに戸惑い…だがすぐに昨夜の悪夢のような情事を思い出す。
…あれが情事と呼べるのだろうか…。
暁は苦しげに唇を歪める。
…あれは…情事ではない…。
自分が乱暴されたとは思わない。
けれど月城の暗く歪んだ闇の心をぶつけられた想いはある。
…だが、あんな状況に追い込んでしまったのは自分だ。
月城を恨む気にはなれない。
暁は月城の胸中を思い遣ると激しく胸が痛んだ。
「…月城…いないのか…?」
周りを見渡し、小さな声で月城を捜す。
広い寝台は暁の場所しか使われた形跡はなかった。
自分の身体に触れる。
綺麗に清拭され、手当までされている。
清潔な寝間着に着替えさせられていた。
枕元の小机には、水差しと…鎮痛剤が置かれていた。
情事の後、暁はよく熱を出すことがあった。
大層心配した月城は以来、必ずドイツ製の鎮痛剤を用意してくれたのだ。
…そして、その陰には暁の大好物のベルギー産のチョコレートが一箱…。
暁は眼を見張る。
熱が出ると途端に食欲を失くす暁の為に、試行錯誤した月城がかつて用意したものだ。
…これなら食べられる。ありがとう、月城…。
子どものように喜ぶ暁に、月城は穏やかに額にキスをくれた。
…私が散々、暁様を啼かせてしまいましたからね。
泣いている子どもには極上の甘いものを…。
そう言って優しく微笑みながら、暁の口にそっと一片のチョコレートを押し込めた。
暁は、赤くなりながら月城を睨む。
…ばか…。
月城のうっとりするほど美しい貌が近づき、チョコレートより甘いくちづけが交わされる…。
「…ばか…月城のばか…」
…こんな状況なのに…彼は自分の為に、心を尽くしてくれていた…。
律儀で忠義者で…そして優しい月城が痛ましく…ただただ切なく愛おしい…。
暁はチョコレートを握り締めながら、はらはらと涙を流す。
そして最後には、子どものようにひたすらに声を放って泣き続けたのであった。
暁は温かい涙の雫が貌や手に降り注ぐ夢を見て、ふと目覚めた。
…朝陽が広い窓一面から差し込んでいた。
きらきらしい一片の曇りもない爽やかな高原の朝だ。
一瞬、自分の状況が分からずに戸惑い…だがすぐに昨夜の悪夢のような情事を思い出す。
…あれが情事と呼べるのだろうか…。
暁は苦しげに唇を歪める。
…あれは…情事ではない…。
自分が乱暴されたとは思わない。
けれど月城の暗く歪んだ闇の心をぶつけられた想いはある。
…だが、あんな状況に追い込んでしまったのは自分だ。
月城を恨む気にはなれない。
暁は月城の胸中を思い遣ると激しく胸が痛んだ。
「…月城…いないのか…?」
周りを見渡し、小さな声で月城を捜す。
広い寝台は暁の場所しか使われた形跡はなかった。
自分の身体に触れる。
綺麗に清拭され、手当までされている。
清潔な寝間着に着替えさせられていた。
枕元の小机には、水差しと…鎮痛剤が置かれていた。
情事の後、暁はよく熱を出すことがあった。
大層心配した月城は以来、必ずドイツ製の鎮痛剤を用意してくれたのだ。
…そして、その陰には暁の大好物のベルギー産のチョコレートが一箱…。
暁は眼を見張る。
熱が出ると途端に食欲を失くす暁の為に、試行錯誤した月城がかつて用意したものだ。
…これなら食べられる。ありがとう、月城…。
子どものように喜ぶ暁に、月城は穏やかに額にキスをくれた。
…私が散々、暁様を啼かせてしまいましたからね。
泣いている子どもには極上の甘いものを…。
そう言って優しく微笑みながら、暁の口にそっと一片のチョコレートを押し込めた。
暁は、赤くなりながら月城を睨む。
…ばか…。
月城のうっとりするほど美しい貌が近づき、チョコレートより甘いくちづけが交わされる…。
「…ばか…月城のばか…」
…こんな状況なのに…彼は自分の為に、心を尽くしてくれていた…。
律儀で忠義者で…そして優しい月城が痛ましく…ただただ切なく愛おしい…。
暁はチョコレートを握り締めながら、はらはらと涙を流す。
そして最後には、子どものようにひたすらに声を放って泣き続けたのであった。

