この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第3章 秘密の花園

庭園の東屋は真夏でも風通しが良く涼しい。
四方を大きな白樺の木に囲まれ、木陰に守られているためだ。
美しい夏の蔓薔薇に覆われた東屋に着くなり礼也は険しい表情で月城の方を向き直る。
「…暁はここ数日ずっと離山の別荘に籠りっきりだそうだ。私が帰宅しても貌も見せに来なかった。
こんなことは初めてのことだ。泉に聞き、私は暁に会いに行ったよ。…暁は酷く憔悴して、落ち込んでいた」
礼也の言葉の一つ一つが胸に突き刺さる。
「…泉が世話をしに行っているが食事も碌に取らず、始終ぼんやりしているそうだ」
「……」
…いつもそうだ。暁様は精神的にショックなことがあると、物を召し上らなくなり、一日中ぼんやりされる。
そんな暁に月城は少しでも食欲が出るように、暁の好きな具材でスープを作ったり、果物を甘く煮たりした。
それを子どものようにひと匙ずつ口に運ぶ暁を優しく見つめる。
やがて、暁は嬉しそうに微笑うのだ。
…月城が作るものを食べると力が出てくる…。
…ありがとう…と呟く暁の白く滑らかな頬を優しく撫でる。
言葉は、いらなかった…。
…そんな繊細な暁様に…私は何という仕打ちをしてしまったのだ…。
月城は思わず瞼を閉じる。
「…何があった?…いや…暁に何をしたのだ、月城」
礼也の眼差しは珍しく怒りを含んでいた。
礼也は今でも暁を誰よりも大切に、可愛がっている。
溺愛と言ってもいい。年を経ても変わらぬ美貌と色香を湛える弟に心酔し、色恋の感情抜きで執着していると言っても過言ではない。
月城は静かに…だがやや苦しげに答えた。
「…もし真実をお答えいたしましたら、縣様は決して私をお許しにはならないでしょう…」
礼也は眼を見張る。
気色ばんだ表情を必死で堪え、暫し沈黙する。
「…暁ももう大人だ。私は君たちの関係に口を出すつもりはない。…だがそれは暁が幸せなら…という話だ。
…もし暁を幸せに出来ないのなら…暁を傷つけるのなら、暁は返してもらう。それだけは覚えておいてくれ」
二人は暫し見つめ合う。
月城は眼を伏せると、一礼を返した。
礼也は
「…仕事の邪魔をしたな…失礼するよ」
と、努めて紳士的に声をかけ月城の傍らを毅然と立ち去った。
月城は礼也を見送り、離山にいる暁に想いを馳せる。
…が、胸が締め付けられるような焦燥感にかられ、心を鬼にしてその想いを振り払い、東屋を立ち去ったのであった。
四方を大きな白樺の木に囲まれ、木陰に守られているためだ。
美しい夏の蔓薔薇に覆われた東屋に着くなり礼也は険しい表情で月城の方を向き直る。
「…暁はここ数日ずっと離山の別荘に籠りっきりだそうだ。私が帰宅しても貌も見せに来なかった。
こんなことは初めてのことだ。泉に聞き、私は暁に会いに行ったよ。…暁は酷く憔悴して、落ち込んでいた」
礼也の言葉の一つ一つが胸に突き刺さる。
「…泉が世話をしに行っているが食事も碌に取らず、始終ぼんやりしているそうだ」
「……」
…いつもそうだ。暁様は精神的にショックなことがあると、物を召し上らなくなり、一日中ぼんやりされる。
そんな暁に月城は少しでも食欲が出るように、暁の好きな具材でスープを作ったり、果物を甘く煮たりした。
それを子どものようにひと匙ずつ口に運ぶ暁を優しく見つめる。
やがて、暁は嬉しそうに微笑うのだ。
…月城が作るものを食べると力が出てくる…。
…ありがとう…と呟く暁の白く滑らかな頬を優しく撫でる。
言葉は、いらなかった…。
…そんな繊細な暁様に…私は何という仕打ちをしてしまったのだ…。
月城は思わず瞼を閉じる。
「…何があった?…いや…暁に何をしたのだ、月城」
礼也の眼差しは珍しく怒りを含んでいた。
礼也は今でも暁を誰よりも大切に、可愛がっている。
溺愛と言ってもいい。年を経ても変わらぬ美貌と色香を湛える弟に心酔し、色恋の感情抜きで執着していると言っても過言ではない。
月城は静かに…だがやや苦しげに答えた。
「…もし真実をお答えいたしましたら、縣様は決して私をお許しにはならないでしょう…」
礼也は眼を見張る。
気色ばんだ表情を必死で堪え、暫し沈黙する。
「…暁ももう大人だ。私は君たちの関係に口を出すつもりはない。…だがそれは暁が幸せなら…という話だ。
…もし暁を幸せに出来ないのなら…暁を傷つけるのなら、暁は返してもらう。それだけは覚えておいてくれ」
二人は暫し見つめ合う。
月城は眼を伏せると、一礼を返した。
礼也は
「…仕事の邪魔をしたな…失礼するよ」
と、努めて紳士的に声をかけ月城の傍らを毅然と立ち去った。
月城は礼也を見送り、離山にいる暁に想いを馳せる。
…が、胸が締め付けられるような焦燥感にかられ、心を鬼にしてその想いを振り払い、東屋を立ち去ったのであった。

