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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第3章 秘密の花園
茫然と井戸に佇む月城の背後から、静かに声がかかる。
「…月城…」
振り返ると、大紋が改まった様子で遠慮勝ちに近づいて来た。
「…少し、いいかな…」
月城は頷く。



裏庭の小さなハーブ園に場所を移す。
ここは、滅多に使用人も来ない場所だ。
大紋は月城の目を見て真摯に語り始めた。
「…今回のことは全て僕の責任だ。…暁は少しも悪くない。…それから…これは言うまでもないことだが、僕と暁の間には何もなかった。…あの抱擁は、色恋のそれではない。…暁が僕に赦しをくれた抱擁だ」
月城は端正な眉を上げた。
「…赦し…?」
「…僕は後悔していると彼に言ったんだ。…暁の手を離したことを…。ずっと愛しているとも…」
月城の指先がぴくりと動く。
…大紋からその言葉を聞くと、やはり冷静ではいられない。
自分はこの礼也と負けずとも劣らない立派な紳士に常に引け目を感じているのだと、今更ながらに思い知らされる。
「…だが暁に言われたよ。…僕はずっと想い出の中の暁を愛していると…想い出の自分を愛されても迷惑だと…はっきりね。…それから…」

月城に一歩近づく。
噛み締めるように、月城の心に届くように語りかける。
「…自分が悩み、苦しみ、もがいて生きて来た時に、いつも君が側に居てくれたと。…今の暁がいるのは全て君のお陰だと。…君を誰よりも愛していると…君以外は何もいらないのだそうだよ…」

月城の肩が小刻みに震え始める。
…暁様…暁様…!
私は…何と愚かなことをしてしまったのだ…!
精巧な西洋人形のように整った滑らかな貌に透明な涙が伝う。
月城の怜悧な黒い瞳は見開かれたままだ。

大紋はその美しい涙を見つめながら、微かに笑った。
「…完璧に失恋したよ。…それで、今まで暁を苦しめて悪かったと詫びたんだ。…そうしたら、暁が僕を抱きしめてくれた。…まるで優しい天使のようにね…」
…あの抱擁は、そういうことだ…と、大紋は告げた。

「…暁を救えるのは君しかいない。…君は暁にとって運命の人なのだから…」
そう付け加えると、月城の肩を慰撫するように叩き、静かに裏庭を後にした。

…裏戸口に立ち、振り返る。

月城は声を放ち泣いていた。

…完璧な美貌、知性、能力、教養、振る舞い…全てが憧憬の眼差しで称される稀有な執事が…その美貌を覆いながら慟哭しているのを、大紋は生涯忘れないだろうと、思った…。




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