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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第3章 秘密の花園

アレイオンがギャロップになったとたん、薫は馬上から振り落とされた。
「わっ‼︎」
下は柔らかな土だから、そう痛くはないが薫は地面に転がったまま動けない。
馬上とはいえ、自分の身長より高いところから振り落とされたのだ。
驚きと痛さで暫くは地面にうつぶせたままになった。
「…痛ったあ…!」
…しかし光は、眉ひとつ動かさずに美しいが冷たい瞳で命令する。
「立ちなさい」
「…へ?」
薫は地面にへたり込んだまま母親を見上げた。
逆光の母親の貌は、にこりともせずに薫を見据えていてまるで氷の女王のようだ。
「早く立ちなさい。騎乗の姿勢が悪すぎるわ。前のめりだし、アレイオンにしがみつきすぎる。だからアレイオンは嫌がって暴れるのよ」
「……」
薫はむっとして光を睨みつけた。
「立ちなさい。馬術なんて落馬が付きものよ。たくさん乗らなくては上手くならないわ」
…何だよ、偉そうに…。
大体、心配じゃないのかよ。子どもが落馬しているのに…!
心の中で悪態を吐くと、まるで読心術でも備えているかのように、光は涼しい貌で言ってのける。
「心配なんかしませんよ。私はお父様にもっともっとしごかれたわ。上手く乗りこなせるまでずっと馬場に残されたもの。それに比べたら生易しいくらいだわ」
…神谷町のお祖父様が?
今はひたすら孫に優しい好々爺だ。
そんなスパルタな姿など想像出来ない。
…いや、そんなことよりも…。
「…お母様は冷たい。普通、母親は子どもが落馬したら、慌てて駆け寄りませんか?大丈夫の一言もないんですか?…絢子小母様は…」
…先日、自分の目の前で落馬した暁人を泣きそうになるほど心配し、逆に暁人が絢子を宥める始末だったのに…。
光は形の良い唇に薄く笑いを浮かべる。
「絢子さんならきっと優しく心配してくれるわよね。
…お生憎様、お母様はそんなことしないの。…早く立ち上がりなさい」
勘忍袋の尾が切れた薫は憤然と立ち上がる。
そして光を睨みつけると叫んだ。
「…僕は馬術も嫌いだし、落馬も嫌だ。…子どもが落馬しても心配すらしない冷たいお母様も嫌いだ!…絢子小母様がお母様なら良かったよ!」
光の美しく毅然とした貌が初めて僅かに歪んだ。
しかし薫は光が何かを言う前に、全てを拒みながら背を向ける。
…お母様なんか…お母様なんか…大嫌いだ!
心の中で叫びながら、薫は一目散に馬場から逃げ出したのだった。
「わっ‼︎」
下は柔らかな土だから、そう痛くはないが薫は地面に転がったまま動けない。
馬上とはいえ、自分の身長より高いところから振り落とされたのだ。
驚きと痛さで暫くは地面にうつぶせたままになった。
「…痛ったあ…!」
…しかし光は、眉ひとつ動かさずに美しいが冷たい瞳で命令する。
「立ちなさい」
「…へ?」
薫は地面にへたり込んだまま母親を見上げた。
逆光の母親の貌は、にこりともせずに薫を見据えていてまるで氷の女王のようだ。
「早く立ちなさい。騎乗の姿勢が悪すぎるわ。前のめりだし、アレイオンにしがみつきすぎる。だからアレイオンは嫌がって暴れるのよ」
「……」
薫はむっとして光を睨みつけた。
「立ちなさい。馬術なんて落馬が付きものよ。たくさん乗らなくては上手くならないわ」
…何だよ、偉そうに…。
大体、心配じゃないのかよ。子どもが落馬しているのに…!
心の中で悪態を吐くと、まるで読心術でも備えているかのように、光は涼しい貌で言ってのける。
「心配なんかしませんよ。私はお父様にもっともっとしごかれたわ。上手く乗りこなせるまでずっと馬場に残されたもの。それに比べたら生易しいくらいだわ」
…神谷町のお祖父様が?
今はひたすら孫に優しい好々爺だ。
そんなスパルタな姿など想像出来ない。
…いや、そんなことよりも…。
「…お母様は冷たい。普通、母親は子どもが落馬したら、慌てて駆け寄りませんか?大丈夫の一言もないんですか?…絢子小母様は…」
…先日、自分の目の前で落馬した暁人を泣きそうになるほど心配し、逆に暁人が絢子を宥める始末だったのに…。
光は形の良い唇に薄く笑いを浮かべる。
「絢子さんならきっと優しく心配してくれるわよね。
…お生憎様、お母様はそんなことしないの。…早く立ち上がりなさい」
勘忍袋の尾が切れた薫は憤然と立ち上がる。
そして光を睨みつけると叫んだ。
「…僕は馬術も嫌いだし、落馬も嫌だ。…子どもが落馬しても心配すらしない冷たいお母様も嫌いだ!…絢子小母様がお母様なら良かったよ!」
光の美しく毅然とした貌が初めて僅かに歪んだ。
しかし薫は光が何かを言う前に、全てを拒みながら背を向ける。
…お母様なんか…お母様なんか…大嫌いだ!
心の中で叫びながら、薫は一目散に馬場から逃げ出したのだった。

