この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第3章 秘密の花園

暁は緩やかに馬を走らせながら、尋ねる。
「…暁人くん、好きな人はいる?」
「…え?」
唐突な質問に暁人は一瞬眼を見張る。
「…なんだか恋しているみたいな貌をしていたから…」
暁の微笑みは捉え所がない。
ふわりと夏の空気に溶け込みそうでいて、しっかりと相手の心の中に入り込むような…そんな微笑みだ。
だからその微笑みに惹き入れられるように答える。
「…好きな人…います」
小さいが意志的な声が聞こえた。
「…そう。どんな人?」
「…凄く綺麗で、きらきらしていて、勝気で…でも我儘だし、癇癪持ちだし、だらしないし、怠け者だし…」
暁は思わず吹き出す。
「…すごい人だね…」
「…でも本当は優しくて繊細で…小さな頃からずっと大好きなんです…」
…真摯な眼差し…。
昔、こんな眼差しで見つめられたことがある…。
…遠い昔…。
見つめられると、胸の奥が甘く疼いてドキドキしたことをふと思い出す。
…懐かしい記憶だ…。
「…そう。…その人は君の気持ちに気付いているの?」
暁人は少し哀しげに首を振る。
「全然。…それに…他に好きな人がいるみたいなんです。寝言で言っていました…」
大人びているとはいえ、また12歳の少年の頼りなげな表情に戻る。
暁相手につい様々なことを吐露してしまうのも、やはりまだ幼さを感じる。
「…そうか…」
暁は唄うように口を開く。
「…自分が想う人が、同じように想ってくれるとは限らないからね…恋は儘ならないことの方が多い…」
「…はい…」
悄気る暁人がいじらしくて、抱きしめたくなる。
暁は凛とした口調でつけくわえる。
「…でも、運命の相手を手繰り寄せるのもまた自分だ。…このひとだと思ったら、その手を離してはいけないよ…」
暁人は眼を見張る。
「…暁小父様…」
「僕は運命のひとに巡り会えた。…それはその人と自分がお互いに手を離さなかったからだ」
手綱を握る暁の華奢な白い薬指に、真新しい銀の指輪が光っていた。
暁人は手綱を引き、馬の脚を止める。
「…暁人くん?」
暁人は毅然と貌を上げ、形の良い唇を一度引き結ぶ。
「…僕、やっぱり薫を見てきます。落ち込んでいるかも知れないし…すみません。失礼します!」
言うが早いか馬首を取って返し、暁人は今来た道を引き返す。
颯爽と馬を駆ける少年の後ろ姿を、暁は情感を込めた優しい微笑みでいつまでも見送るのだった。
「…暁人くん、好きな人はいる?」
「…え?」
唐突な質問に暁人は一瞬眼を見張る。
「…なんだか恋しているみたいな貌をしていたから…」
暁の微笑みは捉え所がない。
ふわりと夏の空気に溶け込みそうでいて、しっかりと相手の心の中に入り込むような…そんな微笑みだ。
だからその微笑みに惹き入れられるように答える。
「…好きな人…います」
小さいが意志的な声が聞こえた。
「…そう。どんな人?」
「…凄く綺麗で、きらきらしていて、勝気で…でも我儘だし、癇癪持ちだし、だらしないし、怠け者だし…」
暁は思わず吹き出す。
「…すごい人だね…」
「…でも本当は優しくて繊細で…小さな頃からずっと大好きなんです…」
…真摯な眼差し…。
昔、こんな眼差しで見つめられたことがある…。
…遠い昔…。
見つめられると、胸の奥が甘く疼いてドキドキしたことをふと思い出す。
…懐かしい記憶だ…。
「…そう。…その人は君の気持ちに気付いているの?」
暁人は少し哀しげに首を振る。
「全然。…それに…他に好きな人がいるみたいなんです。寝言で言っていました…」
大人びているとはいえ、また12歳の少年の頼りなげな表情に戻る。
暁相手につい様々なことを吐露してしまうのも、やはりまだ幼さを感じる。
「…そうか…」
暁は唄うように口を開く。
「…自分が想う人が、同じように想ってくれるとは限らないからね…恋は儘ならないことの方が多い…」
「…はい…」
悄気る暁人がいじらしくて、抱きしめたくなる。
暁は凛とした口調でつけくわえる。
「…でも、運命の相手を手繰り寄せるのもまた自分だ。…このひとだと思ったら、その手を離してはいけないよ…」
暁人は眼を見張る。
「…暁小父様…」
「僕は運命のひとに巡り会えた。…それはその人と自分がお互いに手を離さなかったからだ」
手綱を握る暁の華奢な白い薬指に、真新しい銀の指輪が光っていた。
暁人は手綱を引き、馬の脚を止める。
「…暁人くん?」
暁人は毅然と貌を上げ、形の良い唇を一度引き結ぶ。
「…僕、やっぱり薫を見てきます。落ち込んでいるかも知れないし…すみません。失礼します!」
言うが早いか馬首を取って返し、暁人は今来た道を引き返す。
颯爽と馬を駆ける少年の後ろ姿を、暁は情感を込めた優しい微笑みでいつまでも見送るのだった。

