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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第3章 秘密の花園

鷹司と共に馬術倶楽部のカフェに入ると給仕が恭しく迎え、二人を一番奥の席に通した。
薫はまだ自分だけでカフェに入ったことはない。
母に禁止されていたので、カフェやレストランに入る時は必ず両親や暁など必ず保護者付きでないと許されなかった。
鷹司は自分と5つくらいしか離れていないというのにすっかり物慣れた大人な様子で、給仕に薫のアイスクリームとオレンジジュース、自分には珈琲を注文すると、外国産の細い紙巻煙草に火を点けた。
薫は眼を見張る。
喫煙はもちろん学院で禁止されている。
鷹司は学院では生徒会執行部の幹部だし、馬術部の部長だ。
優等生で品行方正、人望が厚く先輩や同級生、下級生…果ては教師たちからも一目置かれ信頼されているようなそんな人物なのだ。
薫が上級生達のお付きになることを拒み、一騒動起こりそうになった時も、鷹司が中に入って納めてくれたので、皆納得して引きさがったのだ。
そんな絵に描いたような優等生の鷹司が喫煙するとは考えもしなかったのだ。
まじまじと自分を見つめる薫に、鷹司は可笑しそうに煙草を差し出した。
「吸う?」
薫は慌てて、首を振る。
母の教えから逃げ出し、その上にカフェで煙草など吸っていたら光に殺されかねないからだ。
鷹司は笑った。
「…14歳の時に別荘の森番に勧められてからの癖が残ってしまってね。…悪しき習慣だ」
「…はあ…」
飴色の革張りの肘掛け椅子にゆったりと座り、白い乗馬ズボンに包まれた長い脚を組み煙草を燻らす姿は英国の貴公子のように優雅で…しかしどこか憂いを秘めているようにも見えた。
学院では常に華やかな執行部の中心にいて、派手な行動はしないが冷静沈着で…けれど持ち前の大人のユーモアやウィットで和やかに周りを纏めるような陽の印象だったので、少し意外だったのだ。
「…どうしたの?何か僕の貌に付いている?」
つい鷹司を注視してしまった薫を揶揄うように指摘する。
薫は首を振り、しどろもどろに答えた。
「…い、いいえ。…何だかちょっといつもの鷹司さんとは雰囲気が違うから…」
鷹司は品のある切れ長の一重の眼で笑う。
「紳一郎と呼んでくれたまえ。…僕も薫と呼んでもいいかな?…綺麗な名前だね。源氏物語の薫の君みたいだ。…君の呆れるほどに綺麗な貌にぴったりだ」
歯が浮くような褒め言葉を与えられ、薫はこそばゆくなる。
「…は、はあ…」
薫はまだ自分だけでカフェに入ったことはない。
母に禁止されていたので、カフェやレストランに入る時は必ず両親や暁など必ず保護者付きでないと許されなかった。
鷹司は自分と5つくらいしか離れていないというのにすっかり物慣れた大人な様子で、給仕に薫のアイスクリームとオレンジジュース、自分には珈琲を注文すると、外国産の細い紙巻煙草に火を点けた。
薫は眼を見張る。
喫煙はもちろん学院で禁止されている。
鷹司は学院では生徒会執行部の幹部だし、馬術部の部長だ。
優等生で品行方正、人望が厚く先輩や同級生、下級生…果ては教師たちからも一目置かれ信頼されているようなそんな人物なのだ。
薫が上級生達のお付きになることを拒み、一騒動起こりそうになった時も、鷹司が中に入って納めてくれたので、皆納得して引きさがったのだ。
そんな絵に描いたような優等生の鷹司が喫煙するとは考えもしなかったのだ。
まじまじと自分を見つめる薫に、鷹司は可笑しそうに煙草を差し出した。
「吸う?」
薫は慌てて、首を振る。
母の教えから逃げ出し、その上にカフェで煙草など吸っていたら光に殺されかねないからだ。
鷹司は笑った。
「…14歳の時に別荘の森番に勧められてからの癖が残ってしまってね。…悪しき習慣だ」
「…はあ…」
飴色の革張りの肘掛け椅子にゆったりと座り、白い乗馬ズボンに包まれた長い脚を組み煙草を燻らす姿は英国の貴公子のように優雅で…しかしどこか憂いを秘めているようにも見えた。
学院では常に華やかな執行部の中心にいて、派手な行動はしないが冷静沈着で…けれど持ち前の大人のユーモアやウィットで和やかに周りを纏めるような陽の印象だったので、少し意外だったのだ。
「…どうしたの?何か僕の貌に付いている?」
つい鷹司を注視してしまった薫を揶揄うように指摘する。
薫は首を振り、しどろもどろに答えた。
「…い、いいえ。…何だかちょっといつもの鷹司さんとは雰囲気が違うから…」
鷹司は品のある切れ長の一重の眼で笑う。
「紳一郎と呼んでくれたまえ。…僕も薫と呼んでもいいかな?…綺麗な名前だね。源氏物語の薫の君みたいだ。…君の呆れるほどに綺麗な貌にぴったりだ」
歯が浮くような褒め言葉を与えられ、薫はこそばゆくなる。
「…は、はあ…」

