この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第3章 秘密の花園

いくら先輩だからと言って、同じ学院の鷹司に子ども扱いされ、薫はむっとする。
「幸せ?…とんでもないですよ!毎日メドゥーサみたいに怖いお母様にあれをするなこれをするな、あれをしろこれをしろってガミガミ言われる僕のどこが⁈…いっそお母様がいない世界に行きたいよ」
「…アイスクリームが溶けるよ。食べなさい…」
父親のように促され、食いしん坊な薫は渋々といった風に銀のスプーンを取り上げ、バニラアイスクリームを口に運ぶ。
「…美味しい!」
無邪気に声を上げる薫に、鷹司は優しく微笑う。
鷹司は静かに、まるでお話をきかせるように語りかける。
「…母親がいない世界か…。僕はずっとその世界にいるよ。…僕の母親は滅多に屋敷に帰らない人でね。小さな頃から乳母と家政婦に育てられたよ。…まあ、貴族の世界では珍しいことではないけれど、僕が7歳の時に肺炎で死にかけた時にも貌を見にも来なかった。さすがに7歳の僕は寂しがって譫言で母親を呼んだらしいんだ。
…駆けつけた父親が憤っていたけれど、父親は婿養子でね。…母親には強く出られない。結局、何も言えずに終わったよ。…それから今までずっと、たまに会うとお互い他人のように丁寧によそよそしくご挨拶をして食事をする。碌に会話もなくね。
…割り切ってしまえば楽な関係だ。今ではなんとも思わないけれど…小さな時は少し堪えたよ」
薫は思わず、アイスクリームを救うスプーンの手を止めた。
…薫の父親、礼也は家族をとても大切にしている。
母親の光が厳しい分、薫をとても可愛がってくれる。
また、薫には獅子のように容赦ない光だが、礼也には今だに恋する少女のように従順で素直だ。
甘える時には薫や菫がいようが構わずに礼也に愛を囁く。
…その100分の1でいいから僕に優しくしてくれたらいいのに…と薫はいつも二人の仲睦まじい姿を見て独りごちるのだ。
「…鷹司さん…あの…」
何と言って良いのか分からずに口ごもる薫に鷹司は明るく笑ってみせる。
「ああ、同情なんてしないでくれよ。貴族の家なんて両親が不仲なのはごく当たり前だし、僕は経済的には恵まれすぎているほどに恵まれているんだから、自分の家に不満なんかないのさ」
…ただ、たまに隣の芝生が羨ましくなるだけだ…。
そう言って鷹司は新しい煙草に火を点けて少しだけ寂しげに笑ったのだった。
「幸せ?…とんでもないですよ!毎日メドゥーサみたいに怖いお母様にあれをするなこれをするな、あれをしろこれをしろってガミガミ言われる僕のどこが⁈…いっそお母様がいない世界に行きたいよ」
「…アイスクリームが溶けるよ。食べなさい…」
父親のように促され、食いしん坊な薫は渋々といった風に銀のスプーンを取り上げ、バニラアイスクリームを口に運ぶ。
「…美味しい!」
無邪気に声を上げる薫に、鷹司は優しく微笑う。
鷹司は静かに、まるでお話をきかせるように語りかける。
「…母親がいない世界か…。僕はずっとその世界にいるよ。…僕の母親は滅多に屋敷に帰らない人でね。小さな頃から乳母と家政婦に育てられたよ。…まあ、貴族の世界では珍しいことではないけれど、僕が7歳の時に肺炎で死にかけた時にも貌を見にも来なかった。さすがに7歳の僕は寂しがって譫言で母親を呼んだらしいんだ。
…駆けつけた父親が憤っていたけれど、父親は婿養子でね。…母親には強く出られない。結局、何も言えずに終わったよ。…それから今までずっと、たまに会うとお互い他人のように丁寧によそよそしくご挨拶をして食事をする。碌に会話もなくね。
…割り切ってしまえば楽な関係だ。今ではなんとも思わないけれど…小さな時は少し堪えたよ」
薫は思わず、アイスクリームを救うスプーンの手を止めた。
…薫の父親、礼也は家族をとても大切にしている。
母親の光が厳しい分、薫をとても可愛がってくれる。
また、薫には獅子のように容赦ない光だが、礼也には今だに恋する少女のように従順で素直だ。
甘える時には薫や菫がいようが構わずに礼也に愛を囁く。
…その100分の1でいいから僕に優しくしてくれたらいいのに…と薫はいつも二人の仲睦まじい姿を見て独りごちるのだ。
「…鷹司さん…あの…」
何と言って良いのか分からずに口ごもる薫に鷹司は明るく笑ってみせる。
「ああ、同情なんてしないでくれよ。貴族の家なんて両親が不仲なのはごく当たり前だし、僕は経済的には恵まれすぎているほどに恵まれているんだから、自分の家に不満なんかないのさ」
…ただ、たまに隣の芝生が羨ましくなるだけだ…。
そう言って鷹司は新しい煙草に火を点けて少しだけ寂しげに笑ったのだった。

