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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第3章 秘密の花園
「…お陰で私はあまたのお嬢様方の恨みを買ってしまったわ」
「申し訳ありません」
「…けれど、貴方のワルツはとてもお上手だったわ。まさか、薫の先輩だったなんて…」
「私はずっと気づいておりました。…光様のお子様が星南に入学されたと伺って、薫くんにお会いするのを楽しみにしていたのです」
…そんなこと、さっきは何も言わなかったじゃないか…!…と、薫は呆気に取られていた。
大体、メドゥーサのように怖い母にワルツを申し込むなんて、鷹司は頭がイカれているとしか思えなかった。
自分なら裸足で逃げ出すのに…と眉を顰めながら二人を見ていると、鷹司がその高貴な雛人形のような美貌に人懐こい笑みを浮かべ、薫を見た。
「私は馬術部の部長をしています。…薫くんのことはどうぞお任せ下さい。…薫くんにまず馬を好きになっていただきたい。馬術の上達はそれからですからね」
大人びた発言をする鷹司を光は頼もしそうな眼差しで見つめた。
「貴方のような先輩がいて、安心したわ。薫をよろしくお願いしますね」
「もちろんです。喜んで指導させていただきます」
…獅子より強敵な母をすっかり手懐けている鷹司に驚く。

縣家の運転手が車の用意ができたと知らせに来た。
光は馬を馬丁に委ねると、鷹司に挨拶する。
「お会い出来て嬉しかったわ」
鷹司は光の白い手を恭しく握りしめる。
「私もです。…近い内に薫くんをうちの別荘に招待してもよろしいですか?…もちろん大紋くんも一緒に」
薫の隣で警戒している暁人への牽制も忘れない。
「ありがとう。二人とも喜ぶと思うわ。…鷹司さんもぜひ我が家の晩餐会にいらして。主人に改めてご紹介したいの」
普段からクールな光をあっという間にここまで取り込んでしまうのだ。
鷹司の人たらしぶりには舌を巻かざるを得ない。
光を車までエスコートしながら、
「光栄です。縣男爵にお目にかかれるのを楽しみにしております」
と、再び光の手の甲に愛おしげにキスを落とす。
…そして、薫の髪を優しく梳きあげる。
「じゃあ、薫。近い内にまたね。…今年は君のお陰で素晴らしい夏休みになりそうだ」
「は、はあ…」
鷹司は三人を乗せた車を明るく人懐こいがどこか謎めいたひんやりとした笑みで見送り、その場を後にしたのだった。

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