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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第3章 秘密の花園
礼也が扉を軽くノックし光の支度部屋に入ると、光はドレッサーの前でメイドに髪を梳かせているところだった。
真珠色のナイトドレスを着た光がドレッサーの大きな鏡越しに礼也に微笑みかける。

「私が代わろう。君はもう休んで良いよ」
メイドに声をかけ、ブラシを受け取る。
まだ年若のメイドは、濃紺のガウン姿の美丈夫な男爵様が妻の髪を梳かすことに驚きながらも、その仲の良さに羨ましさを感じつつ膝を折り、部屋を退出した。

礼也は光の艶やかで美しい長い髪を愛おしげに梳かす。
礼也は妻の世話をすることが大好きだ。
時間があれば進んで髪を梳かしたり、化粧を手伝ったり、爪の手入れをしてやったりするのだった。

「相変わらず綺麗な髪だね。君はどこもかしこも美しい…」
低い美声で囁きながら、その絹糸のように美しい髪にキスをする。
そのままほっそりとした白く長い首筋に唇を這わせる。
「…礼也さんたら…」
光が小さく笑う。

不意に暁の首筋の薔薇の烙印を思い出す。
…暁も、あの男にこんなことをされているのか…。
自分でも訳の分からない焦燥感にも似た苛立ちの気持ちが湧き上がる。

…月城に優しくしてやりたいと常日頃思っているのだが、暁を我が物顔に抱いているのかと思うとどうしても苦々しい思いが先に立つ。
暁は可愛い弟だ。
三十を超えた今でもどこか儚げでいとけない風情の美貌の弟が礼也は愛おしくて仕方がない。
その感情に性的なものはないと思ってはいるのだが、暁の伴侶、月城が暁を抱いているのかと思うと、自分でも理解できない程の妬心に悩まされるのだ。
それは自分の暁に対する独占欲ゆえ…と思い込もうとしているのだが…自分の深層心理は未だに不明だ。

…いずれにせよ、私は心が狭いな…。
礼也はそっと苦笑する。

気持ちを切り替えて、妻の髪を梳かし続ける。
「菫は絵本を一冊読んだらすぐに寝てしまったよ。おとうちゃまと寝ると頑張っていたのだがね」
菫の寝かしつけは礼也が在宅している時は彼が買って出る。
三歳になった菫は、光譲りの輝くばかりの美貌を既に備えていて、礼也は目の中に入れても痛くない程可愛がっている。
それは光も同じだ。
「菫は貴方が大好きだもの。…でも貴方が不在の時はおかあちゃまと寝ると言って聞かないのよ」
と、目を細める。
三十を過ぎてようやく授かった待望の女児を、光は宝物のように大切にしているのだ。
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