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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第3章 秘密の花園
泉は庭園のベンチに座り、ネクタイを無造作に緩めた。
傍にカンテラを置き、ゆっくりと煙草に火を点ける。
燐寸の小さな灯りが泉の端正な横顔を照らす。
彫りの深い陰影はどこか官能的で、薫はテラスに佇みながら胸がときめくのを感じた。

「…またベッドを抜け出して…お寝みになれないのですか?」
振り向きもせずに、泉に声をかけられ薫は心臓が止まるほどに驚く。
「…泉…」

男はゆっくり振り返り、その月の光にも映えるような明るく整った貌で笑った。
「泉!」
嬉しくなり、子犬のように駆け出す。
泉の隣に勢いよく座る。
「また裸足で…。夜露に濡れますよ」
「平気さ。暑いくらいだ」
泉は薫の貌を見つめると、優しくくしゃりと髪を撫でた。
「暁人様とご一緒にお寝みになっているのでしょう?」
「知っていたの?」
最近、泉が薫の寝室を覗くことはない。
副執事になってからは、薫に対してあれこれと直接的に世話を焼くことも少なくなり、少し距離が出来たような気がするのだ。
それがとても寂しい。
「メイドが毎朝、騒いでおります。朝、カーテンを開けに伺うと、薫様と暁人様が抱き合うようにお寝みになられているそうで…その姿は本当に麗しく、お伽話の王子様たちのようだと…」
薫は恥ずかしくなって貌を赤らめる。
「嘘だ!抱き合ってなんかいないよ。…暁人が勝手にくっついてくるんだろう。あいつ、意外に甘ったれだから、何かというと僕に触ろうとするし…」
泉はやや眉を顰める。
咳払いをしながら尋ねた。
「…あの…大変失礼な質問ですが…暁人様に何か不埒な悪戯をされたりなどということは…」
薫は憤然とする。
「ある訳ないじゃん!暁人は紳士だし…僕が嫌がることなんて絶対しない。…ただ、僕に時々おずおずと触ってうっとりしているだけだ。…僕のことが好きなんだろう」
「…薫様…」
薫は小悪魔めいた微笑を浮かべ、泉を見上げる。
「暁人は綺麗なものが好きなんだ。…きっと僕のこの貌も好きでたまらないんだろう。昔からそうだ」
「…すごい自信ですね…」
泉は思わずたじろぐ。
「綺麗じゃない?僕の貌…」
「…いいえ。…こうして月の光に照らされた薫様のお貌を拝見すると、息が止まるほどのそのお美しさに驚愕するばかりです」
泉の視線にふと艶めいた温度が灯る。
薫の胸が、再びどきどきと早鐘のように高鳴り始める。
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