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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第3章 秘密の花園
「…別に構わないじゃないか。二人はすごく綺麗だったよ。…愛し合っていて、幸せそうだった…僕は泉とあんな風になりたいんだ…て思い知らされたんだ」
「薫様、おやめください!」
泉がはっとするほど強い声を上げた。
薫はびくりと身体を震わせた。
怯えた薫の貌を見て、泉は詫びる。
「申し訳ありません。大きな声を出したりして…。けれど、薫様…。貴方はこの縣男爵家の跡取りなのです。そんなお立場の方が、軽はずみなことを仰ってはなりません。貴方はまだ恋のことなど分かってはおられないのです。私に対する信頼感を恋と勘違いされているのです」

いつになく薫を突き放そうとする泉に、薫は腕を掴み揺さぶる。
「何でそんなこと言うんだよ!…僕は泉が好きだよ…大好きだ!キスしてくれた時は嬉しくて、身体が熱くなって…でも、それからずっと切ない。こんな気持ちは泉だけだ。…昨日、鷹司先輩にキスされたけど、同じ気持ちにはならなかった」
泉はギョッとして、端正な眉を寄せる。
「…キス…された?」
「うん。…頬っぺたにだけどね」
やや安堵しながらも泉の不機嫌な表情は変わらない。
「…薫様に対して何と厚かましい方だ…!」
「…泉、教えてよ。泉は僕のことをどう思っているの?僕は泉の恋人にしてもらえるの?それとも無理なの?泉の口からちゃんと聞きたいんだ」

泉は暫く薫の貌をじっと見つめていたが、やがて小さく息を吐き、口を開いた。
「…大好きですよ、薫様。貴方が生まれた時からずっと…。貴方の成長と存在は私の生き甲斐でした。
私は貴方が可愛くて可愛くて仕方がない。貴方には誰よりも幸せになって欲しい。いつか貴方に相応しい美しく輝かしい女性が現れて、貴方と結ばれて欲しいと考えています」
薫は可愛らしい唇を歪めた。
「僕が聞きたいのはそんな言葉じゃない!…泉は僕とキスしたい?…僕のことを自分のものにしたくない?生々しい欲望を感じてはくれないの?」

泉は眼を閉じて、首を振る。
断腸の思いで、縋り付いてくる少年を突き放そうとして…しかし、己れの中に溢れ出る情動にはついに耐えきれずに、彼は薫の腕を強く引き、抱きすくめた。
「…そうならないように、必死で耐えている私の気持ちがどうしてお分かりにならないのですか⁈」
「…泉…」
「貴方を我が物にしたい衝動にどれだけ耐えているか…貴方にお分かりになる筈がない!」



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