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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第3章 秘密の花園
…この部屋からは庭園の様子が手に取るように分かると、暁人は窓辺に立ちながら、しんと静まりかえる頭で冷静に考えていた。

…夜なのに…
見えなければ、知らないですんだのに…と、暁人は唇を噛みしめる。

…見えなければ…
薫があの美男の副執事にキスをされ、あまつさえ、不埒な行為をしているところを、知らないですんだのに…。

この部屋から庭園までかなりの距離があるというのに、薫の甘い喘ぎ声や、細身だが逞しい体躯の執事と下半身を密着させ…挙げ句の果て、その男によって初めての精を放つところ否応なく見てしまったのだ…!
…薫の人形のように美しい貌が快楽で上気し、その華奢な身体が細かく痙攣する様子を目の当たりにし、暁人はどくどくと脈打つほどに己れの性器が昂り…他ならぬ薫に欲情するのを感じた。

…あんな貌を…あんないやらしくも綺麗な貌を…泉だけに見せたのか…!
はらわたが煮えくり返るほどの強い憤りを、暁人は泉に覚えたのだ。

暁人は穏やかな性格である。人を憎んだり羨んだりすることは皆無だ。
それは母からの教えがあったからだ。
「…人を憎んだり嫉妬してはいけないわ。嫉妬の心を知れば自分が惨めになるの。…そんな気持ちは持たずに心穏やかに過ごすの。誰も憎まず、羨まず、静かに…。そうすれば、全ては上手く行くのよ…」
そう母は幼い暁人に諭し、少し寂しげに微笑った。
だから暁人は母の教えを忠実に守って来た。
穏やかに…激しい感情は持たずに生きていこうとしていた。

…しかし、薫に対してだけは無理だった。
いつからだかは定かではないが、あの生意気で勝気で癇癪持ちの…けれど見惚れてしまうほどに美しく可愛らしい幼馴染が、暁人は好きで好きで仕方がなかった。

薫が男の子だということも、暁人の熱病のように薫に妄執する気持ちを冷ます要因にはならなかった。
少し前は、自分は同性愛者なのかと1人悩んだ夜もあった。
けれど、もし薫の心を自分のものに出来るのならば、そんなことは瑣末な問題にすぎないとすら思えて来てからは、悩むのを止めた。
ことに最近、薫の叔父の暁と月城がくちづけを交わし、愛を語り合うところを目撃してからは、気持ちが楽になったのだ。

…僕は薫を愛し続けていいんだ…と。

しかし、肝心の薫には…恋する人がいた。
…副執事の泉だ。



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