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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第3章 秘密の花園
山小屋の中は意外にも広々として、牧歌的なセンスの良い調度品や家具が備えられており、さながらヨーロッパ貴族の狩猟の休憩の家のようでもある。
床には温かそうな毛皮が敷かれており、壁には狩猟用の銃が幾丁も飾られていた。
なめし革の香りが漂う居間には冬用の煉瓦の暖炉、そして次の間はなぜか、この野性味溢れる山小屋には似つかわしくない豪奢なダブルベッドが置かれた寝室のようだった。
薫は見てはいけないものを見たような気がした。
鷹司は二人に飴色の革張りのソファに座るように勧めると、クイズを出すかのように愉しげに口を開いた。
「ここは何の家だと思う?」
薫と暁人は貌を見合わせた。
「…先輩の森番の家…ですか…?」
二人の軽井沢の別荘にも、ここほど規模は大きくはないが、やはり領地や猟場を管理する森番の家があったからだ。
「さすがだね。そう。僕の屋敷に仕える森番の家だ。…でもただの森番じゃない」
鷹司は暖炉に背中を預けるようにしどけなく佇む。
切れ上がった一重の瞳がやや潤み、陽気にクイズの正解を告げるように口を開く。
「…僕の生物学上の父親の家だ…」
薫は耳を疑った。
暁人は鷹司の言葉を確かめるように小さく尋ねる。
「…父親…?」
「そう。…僕はあの淫乱な母親が野卑で無学な森番と浮気して出来た子どもだ」
まるで愉しい秘密を告白するかのように笑う。
薫は男女の秘め事の知識は乏しい。
だが、鷹司が今話している内容くらいは理解出来る。
けれど余りに突拍子もない告白で、とても素直に信じることはできなかった。
いくら色好みな母親だからと言って、森番との浮気の果てに出来た子どもを正統な嫡子にするだろうか…。
父親は…鷹司公爵はその事実を知っているのだろうか…。
薫の疑問を見透かしたかのように、鷹司があっさりと答える。
「鷹司の父はその事実を知っているよ。…元々、父は幼い頃の病気が元で子どもを作れない身体だった。だから母が他の男と寝て、その胤で子を作ることは暗黙の了解だったわけさ。…その子を自分の子どもとして受け入れ、育てることもね…」
「…そんな…そんなことって…」
「あるのさ。鷹司家は代々女系でね。しかも子どもを授かりにくかった。だから孕めるならどんな下種な胤でも良かったのさ。父は最初から名前だけの父親になる為に婿養子に来たのさ。実に気の毒な話だ」
床には温かそうな毛皮が敷かれており、壁には狩猟用の銃が幾丁も飾られていた。
なめし革の香りが漂う居間には冬用の煉瓦の暖炉、そして次の間はなぜか、この野性味溢れる山小屋には似つかわしくない豪奢なダブルベッドが置かれた寝室のようだった。
薫は見てはいけないものを見たような気がした。
鷹司は二人に飴色の革張りのソファに座るように勧めると、クイズを出すかのように愉しげに口を開いた。
「ここは何の家だと思う?」
薫と暁人は貌を見合わせた。
「…先輩の森番の家…ですか…?」
二人の軽井沢の別荘にも、ここほど規模は大きくはないが、やはり領地や猟場を管理する森番の家があったからだ。
「さすがだね。そう。僕の屋敷に仕える森番の家だ。…でもただの森番じゃない」
鷹司は暖炉に背中を預けるようにしどけなく佇む。
切れ上がった一重の瞳がやや潤み、陽気にクイズの正解を告げるように口を開く。
「…僕の生物学上の父親の家だ…」
薫は耳を疑った。
暁人は鷹司の言葉を確かめるように小さく尋ねる。
「…父親…?」
「そう。…僕はあの淫乱な母親が野卑で無学な森番と浮気して出来た子どもだ」
まるで愉しい秘密を告白するかのように笑う。
薫は男女の秘め事の知識は乏しい。
だが、鷹司が今話している内容くらいは理解出来る。
けれど余りに突拍子もない告白で、とても素直に信じることはできなかった。
いくら色好みな母親だからと言って、森番との浮気の果てに出来た子どもを正統な嫡子にするだろうか…。
父親は…鷹司公爵はその事実を知っているのだろうか…。
薫の疑問を見透かしたかのように、鷹司があっさりと答える。
「鷹司の父はその事実を知っているよ。…元々、父は幼い頃の病気が元で子どもを作れない身体だった。だから母が他の男と寝て、その胤で子を作ることは暗黙の了解だったわけさ。…その子を自分の子どもとして受け入れ、育てることもね…」
「…そんな…そんなことって…」
「あるのさ。鷹司家は代々女系でね。しかも子どもを授かりにくかった。だから孕めるならどんな下種な胤でも良かったのさ。父は最初から名前だけの父親になる為に婿養子に来たのさ。実に気の毒な話だ」