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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第3章 秘密の花園
そう言って、鷹司は首を振りながら苦笑した。
…とても信じられない…。
だって、鷹司はどこから見ても貴公子然として、いかにも高貴な血筋を感じさせるような非の打ち所がない御曹司に見えたからだ。
母親とは疎遠のようだが、父親とは良い関係のようだ。
先日の馬術大会にわざわざ鷹司を見に来て、優しく声をかける公爵を薫は目撃したのだ。
今の話は鷹司の妄想…もしくは自分達を驚かす為に創り上げた過激な嘘話なのではないのか。

「嘘だと思っている?本当さ」
鷹司は薫たちの心の内などお見通しのようだった。
「…父は優しい人でね。僕が卑しい森番の子どもだと知っていても我が子のように…いや、それ以上の愛情を注いでくれる。…父の生家は貧乏公家で、母との結婚の支度金として莫大な金額が支払われているから、この結婚を破綻させる訳にはいかないんだ。だから妻の浮気にも不貞にも全て目を瞑り、僕を可愛がってくれた」
…けれど…と鷹司は初めて寂しげな色を貌に浮かべた。
「…そこに本物の愛情があるのかは、僕には分からない。現に今も父は愛人の家にいるだろう。…目には目を…。至極真っ当なし返しだ」
肩を竦めて見せた鷹司は人生の憂いをその細身の身体に纏わせていた。
「…先輩…」
「お菓子の家の秘密はこれだけと思うかい?」
次のクイズを出すかのように、鷹司は口調を変えた。
こんなスキャンダラスな出生の秘密を二人に語っても尚、愉しげに笑っている鷹司に薫は言い知れぬ心の闇を感じた。
それは暁人も同じようだ。
黙りこくる二人を交互に見つめたあと、鷹司はふと壁に掛かっている猟銃を見上げた。
一瞬、鷹司の眼がどこか切なげに細められる。

そして、まるでお伽話を紐解くかのような静かな優しい口調で語り始めたのだった。

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