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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第3章 秘密の花園
「…森番は、僕が生まれたあと直ぐに職を解かれた。…彼の口から秘密が露呈するのを避けた為だろう。…いや、多情な母はすでに森番に飽きたのかも知れない。…彼は一生掛かっても稼ぎきれないほどの金を渡され、この小屋を出た。…僕は一度も彼に会ったことはない。会いたいとも思わないけれどね…そして…」

…次は一体何が語られるのだろう。
薫は身を硬くした。薫の怖れを察知した暁人が薫の手を握りしめる。
温かい暁人の手から励ましの気持ちが伝わる。

「…森番には息子が一人いた。亡くなった彼の妻が遺した一人息子だ。歳は僕より15上だった。彼は父親に着いてはいかなかった。父親を嫌っていたのかも知れない。…彼はそのまま父親の職を受け継ぎ、ここの森番となった」
鷹司はゆっくりと歩き出し、壁の猟銃にそっと触れた。
…まるで愛おしいものに触れるかのような優しい触れ方であった。
「…彼は酷く口数が少ない青年だったが僕をとても可愛がってくれた。…もちろん、僕が父親と女主人である公爵夫人との間の子どもであることも知っていたのだろう。…母は僕が生まれてからも相変わらず色恋沙汰が絶えない生活で、屋敷にはほとんど寄り付かなかった。父親は僕を可愛がってくれたが、どこか腫れ物に触るような感じで…幼い僕はそれを敏感に察知していた。…執事や乳母は僕をひたすら恭しく扱うだけ。…だが、彼は違った。
僕の生身の存在を丸ごと受け止めてくれて…まるで本当の弟のように可愛がってくれたんだ…」

…森番の息子…ということは鷹司の腹違いの兄弟だ。
15歳上というと、今32…。
彼は今もここにいるのだろうか?
不意に扉を開けて、その森番が入って来そうで薫は緊張した。

鷹司が薫を振り返る。
「…大丈夫。心配はいらないよ。…彼はもうここにはいない。…生きているか死んでいるかも分からないけどね」
薫と暁人は同時に息を呑む。
鷹司はゆっくり微笑った。
…微笑っているのに泣いているような…とても不可思議な微笑いだった。
鷹司の形の良い薄い唇がゆっくり開かれる。

「…僕と寝た翌日に、姿を消して行方は杳として知れない…」

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