この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第3章 秘密の花園
薫は耳を疑った。
言葉を失う薫の代わりに暁人が掠れた声で尋ねる。
「…な、何を言っているのですか…⁉︎」
鷹司は眉ひとつ動かさずに話を続ける。
「…14の年だった。僕は森番と寝た。そう、初めての性体験だ。きっかけは何だったのかな…。
…ああ、僕が彼を好きだと告白したのだった。彼は本当に無口で無表情な男でね。…獲物を撃つ時もまた、仕留めた獲物を捌く時も顔色ひとつ変えなかった。…その彼が…僕が好きだと告げた途端、ひどく狼狽した。そして…獣のように僕を求めてきた。…まるで肉食獣に食い荒らされるように、僕は彼に抱かれたよ。…愛の言葉は、ひとつもなかった。…そうして朝、目覚めると…彼の姿は消えていた。…まるで最初から何処にも存在していなかったかのように、跡形もなく…ね」
…作り話としか思えなかった。
薫は耳を塞ぎたいほどの衝撃を受け…しかし同時に、鷹司の秘密は全て知り尽くしたい欲望にも駆られた。
鷹司はそんな薫の気持ちを満たすように話を続けた。
踵を返し、暖炉の前に戻る。
先ほどは気づかなかったが、暖炉の上には小さな写真立てが置かれていた。
鷹司は白く長い指先で、それを取り上げた。
…まだ幼い美しい少年と…隣には猟銃を持ち、質素な革のジャケットを着た精悍な面立ちの長身の男性が映っていた。
黒く暗い眼差しは鋭く、まるで黒豹のようだ。
ナイフのように鋭利な雰囲気が漂う男性はしかし、しなやかで美しい野獣のようであった。
彼の手は傍らの小さな男の子の手をしっかりと握っていた。
…男の子の貌に、今の鷹司の面影が残されていた。
「我が家で狩りが行われた時の写真だ。…彼の写真はこれ一枚しかない」
写真をなぞる指先に愛おしみを感じたのは、勘違いだろうか…。
僅かに和んだ薫の気持ちに冷水を掛けるような言葉が鷹司の口から発せられた。
「…彼が居なくなり、屋敷のメイド達の噂話が耳に入った。…彼は…僕の母とも通じていたのだ。
…つまり…彼が僕の父親だった可能性もあるという訳さ…。そしてそれを彼は知っていた…。
…僕を抱いたのは愛なんかじゃない。…母への復讐だったのだ」
そこで言葉を途絶えさせた鷹司は、不意に堪えきれぬように笑い出した。
そして、何かが破裂するかのように甲高い声で笑い転げるのを、二人は微動だにせずに見つめ続ける他はなかったのだった。
言葉を失う薫の代わりに暁人が掠れた声で尋ねる。
「…な、何を言っているのですか…⁉︎」
鷹司は眉ひとつ動かさずに話を続ける。
「…14の年だった。僕は森番と寝た。そう、初めての性体験だ。きっかけは何だったのかな…。
…ああ、僕が彼を好きだと告白したのだった。彼は本当に無口で無表情な男でね。…獲物を撃つ時もまた、仕留めた獲物を捌く時も顔色ひとつ変えなかった。…その彼が…僕が好きだと告げた途端、ひどく狼狽した。そして…獣のように僕を求めてきた。…まるで肉食獣に食い荒らされるように、僕は彼に抱かれたよ。…愛の言葉は、ひとつもなかった。…そうして朝、目覚めると…彼の姿は消えていた。…まるで最初から何処にも存在していなかったかのように、跡形もなく…ね」
…作り話としか思えなかった。
薫は耳を塞ぎたいほどの衝撃を受け…しかし同時に、鷹司の秘密は全て知り尽くしたい欲望にも駆られた。
鷹司はそんな薫の気持ちを満たすように話を続けた。
踵を返し、暖炉の前に戻る。
先ほどは気づかなかったが、暖炉の上には小さな写真立てが置かれていた。
鷹司は白く長い指先で、それを取り上げた。
…まだ幼い美しい少年と…隣には猟銃を持ち、質素な革のジャケットを着た精悍な面立ちの長身の男性が映っていた。
黒く暗い眼差しは鋭く、まるで黒豹のようだ。
ナイフのように鋭利な雰囲気が漂う男性はしかし、しなやかで美しい野獣のようであった。
彼の手は傍らの小さな男の子の手をしっかりと握っていた。
…男の子の貌に、今の鷹司の面影が残されていた。
「我が家で狩りが行われた時の写真だ。…彼の写真はこれ一枚しかない」
写真をなぞる指先に愛おしみを感じたのは、勘違いだろうか…。
僅かに和んだ薫の気持ちに冷水を掛けるような言葉が鷹司の口から発せられた。
「…彼が居なくなり、屋敷のメイド達の噂話が耳に入った。…彼は…僕の母とも通じていたのだ。
…つまり…彼が僕の父親だった可能性もあるという訳さ…。そしてそれを彼は知っていた…。
…僕を抱いたのは愛なんかじゃない。…母への復讐だったのだ」
そこで言葉を途絶えさせた鷹司は、不意に堪えきれぬように笑い出した。
そして、何かが破裂するかのように甲高い声で笑い転げるのを、二人は微動だにせずに見つめ続ける他はなかったのだった。