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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第3章 秘密の花園
屋敷に戻ってからも鷹司は二人を甘やかすように優しくもてなした。
夕刻に迎えに来た縣家の運転手を
「二人は今夜、うちに泊まるから光様によろしく伝えてくれたまえ」
と、二人の了解も得ずに帰してしまったのだ。

薫と暁人はしかし、嫌だとも言えずに鷹司の言うなりになった。
あの森番の小屋で、鷹司の恐るべき出生の秘密を告白され、二人はすっかり鷹司の魔力のようなものに取り込まれてしまったのだ。
…怖くて悍ましくて…けれどどこか甘く毒な薫りがする美しく妖しいお菓子のようなもの…。
それが、鷹司だ。
見たくないのに目を背けられない。
…おどろおどろしくて醜悪だが、少年達の幼い官能を刺激し、麻薬のように惹き寄せられてしまう…。
鷹司の秘密の告白はそれだったのだ。

晩餐は血が滴るようなTボーンステーキにローストターキー、北京ダックにロブスター、エスカルゴ、ミートパイ…と支離滅裂な海賊の晩餐会のようなメニューだった。

普段だったら、薫ははしゃいで食べるであろうメニューも、今夜はとてもそんな気になれなかった。
だが、二人とも帰りたいとは言い出さなかった。

鷹司は一人、ご機嫌だった。
ワインをいくら飲んでも顔色が変わらないのは不思議だった。
広い大食堂の細長いテーブルにマントルピースを背に座り、楽しげにワインを煽り二人を褒めそやした。
「君達は可愛いな。…僕は君達みたいな弟が欲しかったよ。僕の母はセックスは好きだが妊娠や出産は嫌いだったのだろう。子どもは僕だけだ」
まだ給仕する下僕やメイドがたくさんいるのに、母をあからさまに揶揄する鷹司に薫と暁人は動揺する。
それを見て、楽しげに笑い声を上げる。
「大丈夫。奥様の華麗なる男性遍歴は使用人達も先刻ご承知さ。今更驚きもしない」
確かに鷹司の言葉を聞いても下僕やメイド、果ては執事まで表情一つ変えない。
恭しく礼儀正しく給仕をするといつの間にか消えてゆく。
まるで生きた人形だ。
鷹司は…こんな家でいつも暮らしているのだろうか…。
一人で…。

薫の胸は切なく傷んだ。
同時に、普段はうるさくて煩わしい母の小言や顰めっ面を妙に懐かしく感じた。

鷹司はワインを飲み干すと、しなやかに立ち上がる。
そして、ワルツに誘うかのように優雅に手を差し伸べ、ひんやりとした端正な貌に微笑みを浮かべた。
「…さあ、ゲームの時間だ。夜は長い。ゆっくり愉しもう」

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