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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第3章 秘密の花園
鷹司の遊戯室は頽廃的なものばかりが陳列されているさながら、英国貴族の妖しの館の一室のようだった。
…本物かどうかわからないが、象牙色の骸骨の頭、壁にはフリーメーソンのタペストリー、アンティークの地球儀、余りに精巧で見つめるのも躊躇うような西洋人形、蓄音器からはアンニュイなドイツ女の甘ったるい愛の唄が流れる…。
鷹司は二人に熱いココアを継ぎ、自分は再びワインを開け、細い紙巻煙草に火を点けた。
「…煙草は14の年に彼に教わった。…彼はヘビースモーカーでね。彼の服や身体にはいつも安い煙草の匂いが染み付いていた。…最悪な男だ。今となっては、なぜそんな下種で無教養な男に身体を許したのか…」
そう嘯きながらも鷹司は身体のどこかが痛むような…そんな表情をうっすらと浮かべた。
…少し前から降り始めた雨が、音を立てて出窓の硝子を打つ。鷹司が重たげなゴブラン織りのカーテンをたくし上げながら呟く。
「…降り出した。嵐になるな…」
「あんなに良い天気だったのに…?」
鷹司は薫に無邪気に笑いかける。
「夕方、急に気温が下がっておかしな風が吹いた。あんな風が吹く時は必ず嵐になる」
…それも彼が教えてくれた。
鷹司は目を細めると、そのまま暖炉の薪に火を点けた。
夏とはいえ、軽井沢は夜になると一気に気温が下がるのだ。
薫は勇気を出して、口を開く。
「…その森番の人は本当にどこかに行ってしまったの?全く音沙汰なし?」
鷹司は美しい背中を見せながら淡々と答える。
「…ああ、三年前の夏に僕の前から姿を消したっきりだ」
「…探さないのですか?」
今まで黙りこくっていた暁人が不意に尋ねた。
ゆっくりと鷹司が振り返る。
「…探す?どうして?」
訳がわからないといった貌をする。
暁人は意志の強さと聡さを感じさせる澄んだ眼差しで鷹司を見上げる。
「…鷹司先輩は、その人を愛しているんでしょう?さっきから聞いていたらその人の話ばかり…。愛していて捨てられたから…傷ついているんじゃないんですか?」
鷹司は一瞬眼を見張り、次に爆発するように笑い転げた。
笑いは発作のように激しく続いた。
「…君は何を言っているんだ?僕が彼を愛しているだって?14の僕を無理やり抱いた男を?…異母兄弟か…もしかしたら実の父親かも知れない男を…?…あははは!…やめてくれ、笑い死にしそうだよ」
…本物かどうかわからないが、象牙色の骸骨の頭、壁にはフリーメーソンのタペストリー、アンティークの地球儀、余りに精巧で見つめるのも躊躇うような西洋人形、蓄音器からはアンニュイなドイツ女の甘ったるい愛の唄が流れる…。
鷹司は二人に熱いココアを継ぎ、自分は再びワインを開け、細い紙巻煙草に火を点けた。
「…煙草は14の年に彼に教わった。…彼はヘビースモーカーでね。彼の服や身体にはいつも安い煙草の匂いが染み付いていた。…最悪な男だ。今となっては、なぜそんな下種で無教養な男に身体を許したのか…」
そう嘯きながらも鷹司は身体のどこかが痛むような…そんな表情をうっすらと浮かべた。
…少し前から降り始めた雨が、音を立てて出窓の硝子を打つ。鷹司が重たげなゴブラン織りのカーテンをたくし上げながら呟く。
「…降り出した。嵐になるな…」
「あんなに良い天気だったのに…?」
鷹司は薫に無邪気に笑いかける。
「夕方、急に気温が下がっておかしな風が吹いた。あんな風が吹く時は必ず嵐になる」
…それも彼が教えてくれた。
鷹司は目を細めると、そのまま暖炉の薪に火を点けた。
夏とはいえ、軽井沢は夜になると一気に気温が下がるのだ。
薫は勇気を出して、口を開く。
「…その森番の人は本当にどこかに行ってしまったの?全く音沙汰なし?」
鷹司は美しい背中を見せながら淡々と答える。
「…ああ、三年前の夏に僕の前から姿を消したっきりだ」
「…探さないのですか?」
今まで黙りこくっていた暁人が不意に尋ねた。
ゆっくりと鷹司が振り返る。
「…探す?どうして?」
訳がわからないといった貌をする。
暁人は意志の強さと聡さを感じさせる澄んだ眼差しで鷹司を見上げる。
「…鷹司先輩は、その人を愛しているんでしょう?さっきから聞いていたらその人の話ばかり…。愛していて捨てられたから…傷ついているんじゃないんですか?」
鷹司は一瞬眼を見張り、次に爆発するように笑い転げた。
笑いは発作のように激しく続いた。
「…君は何を言っているんだ?僕が彼を愛しているだって?14の僕を無理やり抱いた男を?…異母兄弟か…もしかしたら実の父親かも知れない男を…?…あははは!…やめてくれ、笑い死にしそうだよ」