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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第3章 秘密の花園
夜に…しかも土砂降りで風が吹き荒ぶ中、馬に乗るのはもちろん初めてだ。
果てしなく広がる闇の中、森の木々が狂ったようにしなり凄まじい雨風が吹き付ける。

…こんな嵐の中、あんな山小屋に行くなんて…本当に暁人は馬鹿だ!

別れ際の笑顔が思い浮かぶ。
…薫、愛しているよ…。

大人びた笑顔…真っ直ぐな眼差し…。

…僕の為に…こんな馬鹿げた真似を…?

薫の胸はずきりと痛む。
…薫は暁人のことを今までどこか甘く見ていたところがあった。
幼い頃からずっとそばに居て薫の言うことは何でも聞いてくれた暁人…。
その眼差しはいつも熱っぽく、薫は暁人から愛されていることを当たり前のように感じていた。
時にはそれが鬱陶しく、邪険に扱ったりもした。
けれど暁人は、決してめげることもなく黙って薫のそばに居て、一途に想ってくれた。
暁人はとても賢く優しく大人で穏やかな性格だ。
人と争うことを嫌い、誰かと衝突しそうになると自分から折れ、引き下がる。
薫の無鉄砲で癇癪持ちの性格と大違いだった。

…それが、目上の鷹司にあんなに強気に食って掛かるなんて…。

薫は表情を引き締め、手綱を握り直す。
振り落とされそうになりながら、頭に浮かんだのは光の声だ。

…馬にしがみつかない!しがみつくと馬に緊張が伝わって余計に暴れられるわ。手綱もきつく締めすぎないように、両脚の扶助も自然に、余分な力は抜くのよ。
身体の芯を意識して…。

…お母様…!

光の言葉がこんなにも心強く感じたことはない。
薫は光の教えを反芻しながら、僅かばかりのランプの灯りを頼りに、どこまでも広がる暗闇の中を暁人の跡を追いかけて走り続けるのだった。



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