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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第3章 秘密の花園
「本当に酷い目にあったよ!…あのバカ馬も…鷹司のすかしたサイコ野郎も…絶対絶対許さない!」
床に大の字に寝転がったまま尚も毒づく薫に、暁人はつい笑いを漏らす。
…これだけ悪態をつけるなら大丈夫だな…。
二人して無事に山小屋に着いた安堵感がじわじわと暁人の身体を包み込む。
「…馬はともかく、鷹司先輩をそんな風に言うのはどうかな…。仮にも先輩だし…」
暁人は手探りでランプを探し当て、近くにあった燐寸で火を点ける。
「お前は本当にお人好しだなあ。…あのサイコ野郎のせいで、僕たちはこんな眼にあったんだぞ!」
ランプの赤々とした光が暁人の端正な横顔を照らし出す。
…随分大人びて…そして男らしく見える暁人に薫は思わず見惚れた。
…暁人って、凄いやつだな…。
薫の脳裏に今しがたの忘れ難い光景が蘇る。
…吊り橋は案の定、暴風に激しく揺れガタガタとその渡り板がぶつかる。荒れ狂う風の音に混じり薫の耳に届いた。
薫は身震いする。
「…やっぱり無理だ。渡れるはずがない。昼間だってすごく揺れていたのに…こんな嵐の夜に…自殺するようなもんだよ!」
暁人はじっと吊り橋の先を見据え、唇を引き結んだ。
薫は暁人の腕を揺さぶる。
「やめよう。暁人!あんなヤツの賭けに負けたからってなんだよ。大したことじゃないよ。こんなことして死んじゃう方が馬鹿馬鹿しいよ」
暁人は薫を見下ろす。
そして、静かに首を振った。
「嫌だ」
「なんでさ⁈」
「僕の薫への気持ちは本物なんだ。それを台無しにしたくない」
薫は息を飲む。
強い瞳に見つめられ、言葉が出てこない。
「…そんな…」
すると暁人はふわりと笑い、背後から薫を強く抱きしめた。
「大丈夫、僕を信じて。絶対に渡りきってみせる」
「…暁人…」
暁人の胸は暖かかった。
その胸の鼓動は、落ち着いていて薫は自分の心も鎮まってゆくのを感じた。
「…薫は目を閉じていて。一気に駆けるから…」
そう耳元で囁いたかと思うと、改めて薫を抱き寄せる。
手綱を手繰り寄せ、鐙を強く蹴る。
「行くよ、薫」
「暁人…」
馬は暁人の冷静な指示に合わせ、怯むことなく吊り橋を一気に駆け出す。
ぎゅっと目を閉じて暁人にしがみつく。
暁人が薫の身体を抱きしめ、手綱を引く。
風に煽られ、渡り板が弾む。
吊り橋が激しく揺れる。
身体が振り落されると思った時には二人は吊り橋を渡り終えていた…。
床に大の字に寝転がったまま尚も毒づく薫に、暁人はつい笑いを漏らす。
…これだけ悪態をつけるなら大丈夫だな…。
二人して無事に山小屋に着いた安堵感がじわじわと暁人の身体を包み込む。
「…馬はともかく、鷹司先輩をそんな風に言うのはどうかな…。仮にも先輩だし…」
暁人は手探りでランプを探し当て、近くにあった燐寸で火を点ける。
「お前は本当にお人好しだなあ。…あのサイコ野郎のせいで、僕たちはこんな眼にあったんだぞ!」
ランプの赤々とした光が暁人の端正な横顔を照らし出す。
…随分大人びて…そして男らしく見える暁人に薫は思わず見惚れた。
…暁人って、凄いやつだな…。
薫の脳裏に今しがたの忘れ難い光景が蘇る。
…吊り橋は案の定、暴風に激しく揺れガタガタとその渡り板がぶつかる。荒れ狂う風の音に混じり薫の耳に届いた。
薫は身震いする。
「…やっぱり無理だ。渡れるはずがない。昼間だってすごく揺れていたのに…こんな嵐の夜に…自殺するようなもんだよ!」
暁人はじっと吊り橋の先を見据え、唇を引き結んだ。
薫は暁人の腕を揺さぶる。
「やめよう。暁人!あんなヤツの賭けに負けたからってなんだよ。大したことじゃないよ。こんなことして死んじゃう方が馬鹿馬鹿しいよ」
暁人は薫を見下ろす。
そして、静かに首を振った。
「嫌だ」
「なんでさ⁈」
「僕の薫への気持ちは本物なんだ。それを台無しにしたくない」
薫は息を飲む。
強い瞳に見つめられ、言葉が出てこない。
「…そんな…」
すると暁人はふわりと笑い、背後から薫を強く抱きしめた。
「大丈夫、僕を信じて。絶対に渡りきってみせる」
「…暁人…」
暁人の胸は暖かかった。
その胸の鼓動は、落ち着いていて薫は自分の心も鎮まってゆくのを感じた。
「…薫は目を閉じていて。一気に駆けるから…」
そう耳元で囁いたかと思うと、改めて薫を抱き寄せる。
手綱を手繰り寄せ、鐙を強く蹴る。
「行くよ、薫」
「暁人…」
馬は暁人の冷静な指示に合わせ、怯むことなく吊り橋を一気に駆け出す。
ぎゅっと目を閉じて暁人にしがみつく。
暁人が薫の身体を抱きしめ、手綱を引く。
風に煽られ、渡り板が弾む。
吊り橋が激しく揺れる。
身体が振り落されると思った時には二人は吊り橋を渡り終えていた…。