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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第3章 秘密の花園
車を降りた鷹司家の下僕が、山小屋の小さな厩舎に繋がれた灰白色の馬を見つけ叫んだ。
「紳一郎様!これはうちの馬…オルフェです!」
鷹司はまだ緊張した面持ちだ。
…その時、山小屋の扉がゆっくり開き…中から薫と暁人が戸惑ったように出て来た。
鷹司の後ろで、光に支えられるように歩いて来た絢子が小さく叫んだ。
「暁人さん!…暁人さん!ご無事だったのね⁈」
水溜りに美しいドレスの裾が汚れるのも厭わず、絢子は暁人に駆け寄り、息子を抱きしめる。
「お母様…?」
「…良かった…本当に…良かったわ…!」
そのあとは号泣して言葉にならない。
面食らう暁人と薫に、まだ蒼ざめた貌の鷹司が説明する。
「…君達は知らないみたいだけれど、昨夜あの吊り橋が落雷で崩落したんだ」
二人は絶句する。
「君達が渡り終えた直後らしい。…栗毛のオスカーも嵐のあと戻ってきてしまったし…。山への道が途絶えたから嵐が去ってから、もうひとつの山道を迂回して漸く着いたんだ」
…そんな大事になっていたのか…。
薫は唖然とした。
二人の母を呼び寄せたのは、さすがは生徒会執行部の役員らしい鷹司の冷静な判断だ。
ぼんやり感心していると、車の横で微動だにせずに佇む光と目が合う。
…今まで見たことがないほど怖い…近寄り難い位に硬い表情をしている。
光の美しい彫像のような貌は真っ白で…蝋人形のように凄絶な美貌を際立たせている。
…嫌だな…。また叱られるのかな…。
どうせ僕が我儘を言って、こうなったと思っているに違いない。
…いや…もしかしたらぶん殴られるかも…。
覚悟を決めていると、光がゆっくりと薫の方へ歩いてくる。
やがて光は薫の前でぴたりと止まる。
…と、氷のように強張った貌を突然くしゃりと歪め…声を放って泣きながら薫を抱きしめた。
「お、お母様…?」
余りの驚きに薫は瞬きをするのも忘れ、棒立ちになる。
光は子どものようにしゃくりあげる。
「もう!…絶対…死んでると思ったわ…あんな下手くそな乗馬じゃ…谷底に落ちてるって…バカ…バカ…!」
「お母様…」
息が止まるほど強く抱きすくめられる。
光の温かい涙が薫の頬にも落ちる。
「…良かった…薫が生きていた…神様…!」
…そこにはいつもの気高く冷静な光の姿はどこにもなかった。
ひたすら子どもの無事に安堵し涙する…どこにでもいるごく普通の…愛情に満ちた母の姿があるだけであった。
「紳一郎様!これはうちの馬…オルフェです!」
鷹司はまだ緊張した面持ちだ。
…その時、山小屋の扉がゆっくり開き…中から薫と暁人が戸惑ったように出て来た。
鷹司の後ろで、光に支えられるように歩いて来た絢子が小さく叫んだ。
「暁人さん!…暁人さん!ご無事だったのね⁈」
水溜りに美しいドレスの裾が汚れるのも厭わず、絢子は暁人に駆け寄り、息子を抱きしめる。
「お母様…?」
「…良かった…本当に…良かったわ…!」
そのあとは号泣して言葉にならない。
面食らう暁人と薫に、まだ蒼ざめた貌の鷹司が説明する。
「…君達は知らないみたいだけれど、昨夜あの吊り橋が落雷で崩落したんだ」
二人は絶句する。
「君達が渡り終えた直後らしい。…栗毛のオスカーも嵐のあと戻ってきてしまったし…。山への道が途絶えたから嵐が去ってから、もうひとつの山道を迂回して漸く着いたんだ」
…そんな大事になっていたのか…。
薫は唖然とした。
二人の母を呼び寄せたのは、さすがは生徒会執行部の役員らしい鷹司の冷静な判断だ。
ぼんやり感心していると、車の横で微動だにせずに佇む光と目が合う。
…今まで見たことがないほど怖い…近寄り難い位に硬い表情をしている。
光の美しい彫像のような貌は真っ白で…蝋人形のように凄絶な美貌を際立たせている。
…嫌だな…。また叱られるのかな…。
どうせ僕が我儘を言って、こうなったと思っているに違いない。
…いや…もしかしたらぶん殴られるかも…。
覚悟を決めていると、光がゆっくりと薫の方へ歩いてくる。
やがて光は薫の前でぴたりと止まる。
…と、氷のように強張った貌を突然くしゃりと歪め…声を放って泣きながら薫を抱きしめた。
「お、お母様…?」
余りの驚きに薫は瞬きをするのも忘れ、棒立ちになる。
光は子どものようにしゃくりあげる。
「もう!…絶対…死んでると思ったわ…あんな下手くそな乗馬じゃ…谷底に落ちてるって…バカ…バカ…!」
「お母様…」
息が止まるほど強く抱きすくめられる。
光の温かい涙が薫の頬にも落ちる。
「…良かった…薫が生きていた…神様…!」
…そこにはいつもの気高く冷静な光の姿はどこにもなかった。
ひたすら子どもの無事に安堵し涙する…どこにでもいるごく普通の…愛情に満ちた母の姿があるだけであった。