この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第3章 秘密の花園
「…そんな馬鹿な…そんなことって…」
鷹司のすらりと細身の美しい後ろ姿が細かく震え出した。
…しんいちろうさま、あいするひと…
まるで、子どもが一途に刻んだような言葉…。
銀の素朴な指輪…。
…誰がその言葉を刻み、なぜその指輪を残していったのか…。
…薫や暁人が想像することができるのだから、鷹司は尚更だろう。
茫然自失とし、最早周りに取り繕う余裕もない鷹司を慮り、薫はわざと大声を立てた。
「あ〜あ、お腹すいちゃった。お母様!僕、早く家に帰ってワッフルが食べたい!あと、カイザーにも早く会いたい!ねえ、早く家に連れていってよ。もう山小屋は飽きちゃったよ」
光は眉を寄せながらも鷹司を見遣り…ふと何かを察知したかのように瞬きをすると、ふっと肩を竦めた。
「分かったわ。これ以上、ここにいてもご迷惑だし。私達は家に帰ることにしましょう。…よろしいかしら?絢子さん」
「…え、ええ。もちろん…」
絢子は暁人を抱きしめながら頷く。
彼女は早く息子を安全な場所に移したかったから、全く異存はないのだ。
「では、皆んな車に乗って。…林、家に帰ります。今日は夕方に礼也さんも春馬さんも東京から戻ってこられるから、晩餐の指示もしなくてはね」
「はい!奥様!」
運転手の林は急いで運転席に戻る。
皆が車の方に向ったのを確認すると、光はまだぼんやりと空を見つめている鷹司にさりげなく声を掛けた。
「…鷹司様、これからも薫をよろしくね」
ゆっくりと鷹司が振り返る。
「…光様…」
光はいつものように華やかな微笑みを浮かべた。
「いつか我が家にもいらしてね。…では、ご機嫌よう」
優雅にお辞儀をすると、しなやかな脚取りでその場を後にした。
鷹司は去りゆく車を見送る。
そしてもう一度、恐る恐る指輪を見つめると掌の中に強く強く握り込み、いつまでもその場所に立ち竦み続けたのだった。
鷹司のすらりと細身の美しい後ろ姿が細かく震え出した。
…しんいちろうさま、あいするひと…
まるで、子どもが一途に刻んだような言葉…。
銀の素朴な指輪…。
…誰がその言葉を刻み、なぜその指輪を残していったのか…。
…薫や暁人が想像することができるのだから、鷹司は尚更だろう。
茫然自失とし、最早周りに取り繕う余裕もない鷹司を慮り、薫はわざと大声を立てた。
「あ〜あ、お腹すいちゃった。お母様!僕、早く家に帰ってワッフルが食べたい!あと、カイザーにも早く会いたい!ねえ、早く家に連れていってよ。もう山小屋は飽きちゃったよ」
光は眉を寄せながらも鷹司を見遣り…ふと何かを察知したかのように瞬きをすると、ふっと肩を竦めた。
「分かったわ。これ以上、ここにいてもご迷惑だし。私達は家に帰ることにしましょう。…よろしいかしら?絢子さん」
「…え、ええ。もちろん…」
絢子は暁人を抱きしめながら頷く。
彼女は早く息子を安全な場所に移したかったから、全く異存はないのだ。
「では、皆んな車に乗って。…林、家に帰ります。今日は夕方に礼也さんも春馬さんも東京から戻ってこられるから、晩餐の指示もしなくてはね」
「はい!奥様!」
運転手の林は急いで運転席に戻る。
皆が車の方に向ったのを確認すると、光はまだぼんやりと空を見つめている鷹司にさりげなく声を掛けた。
「…鷹司様、これからも薫をよろしくね」
ゆっくりと鷹司が振り返る。
「…光様…」
光はいつものように華やかな微笑みを浮かべた。
「いつか我が家にもいらしてね。…では、ご機嫌よう」
優雅にお辞儀をすると、しなやかな脚取りでその場を後にした。
鷹司は去りゆく車を見送る。
そしてもう一度、恐る恐る指輪を見つめると掌の中に強く強く握り込み、いつまでもその場所に立ち竦み続けたのだった。