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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第4章 ハニームーン・ペーパームーン 〜蜜・月・旅・行〜
月城が予約をしてくれた旅館は松本城の奥座敷と呼ばれる浅間温泉であった。

数ある由緒正しい名旅館の中でも、美ヶ原近くの山奥にひっそりと隠れ家のように建つ枇杷の湯…。
外国からの要人や各界の名士が極秘に訪れた時にはお忍びの宿泊に使われるような…知る人ぞ知る隠密の高級旅館である。

…幾棟かある宿の内、1番奥に建つ離れの部屋に案内される。
幾部屋もあり、次の間の奥には茶室まで着いた最上級の数寄屋造りの家屋には、広々とした枯山水庭園がひろがり、月見台まで設えてある。
その手前には、桧造りの屋根が付いた露天風呂があり、暖かな温泉の湯気が立ち昇っていた。

「…こんな良い宿、高かっただろう?」
素晴らしい景色を見ながら、心配そうに暁は尋ねる。
月城の給料は破格に高く、高級取りなのは分かってはいたが、それにしても政府の要人が泊まるような旅館を二泊も予約させてしまったことに、暁は申し訳なく思ったのだ。
見上げると、直ぐに柔らかく抱きすくめられる。
月城の水仙の薫りが胸一杯に広がる。
今日はキャメルカラーのセーターにツイードのジャケットというカジュアルな出で立ちだが、それが人形のように整った怜悧な美貌を甘く引き立たせている。
…旅館に到着した時、出迎えの若い中居が月城を見て頬を赤らめ見惚れていたのを暁は見逃さなかった。

「…この旅館は私の大学の同窓生の実家なのです。…色々と心得てくれているので、心おきなくお過ごしください」
「…月城…」
感激したように胸を詰まらせる暁の白い陶器のようにすべらかな頬を愛撫するように撫でる。
「…今回は私達の新婚旅行なのです。…想い出に残る旅行にしましょう…」
艶めかしく微笑まれ、暁の胸は甘くときめく。
答えようとした唇を情感を込めて奪われ、貪られる。
「…んんっ…あ…っ…」
「…この二日間は貴方を独占できる…私だけのものだ…」
熱い舌先を絡められ、狂おしく口内を弄られる。
息が詰まるほどに舌を絡められ、千切れるほどに吸われる。
「…あ…ああ…っ…ん…つき…しろ…」
「暁様…」
甘く掠れた声を上げる暁を漸く解放し、その桜貝のように薄紅に染まった耳朶を甘噛みし、淫靡に囁く。
「…覚悟なさってください…淫らな貴方を私の好きなように可愛いがらせていただきます…貴方が泣こうが喚こうが赦しませんよ…」
薄く淫蕩に笑われ、暁の身体はもう甘く切なく疼き始める。
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