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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第4章 ハニームーン・ペーパームーン 〜蜜・月・旅・行〜
広々とした寝室には伽羅の香が焚きしめられ、古式床しい薫りが漂っていた。
上質な白絹の羽二重の褥が敷き詰められ、それを御所車の錦絵の屏風と秋の花を描いた絹の几帳が囲む。

…まるで平安朝の深窓の姫君の寝所のようだ…。
月城は儚げで美しい姫君の寝所に無理やり踏み込み、その純潔を奪う公達になったかのような錯覚を覚え、己れの中の獣の血が騒ぐのを感じた。

…暁を抱く時はいつもそうだ。
自分が野卑な野獣になり、彼を襲い奪い尽くすかのような妄想に駆られるのだ。
月城は元来、性的欲求は淡白な性である。
セックスなどなくても全く構わなかった。
若い頃は戯れの恋のアプローチに仕方なく応えていた程度である。
もちろん恋人もいなかった。
欲しいとも思わなかった。
「…もてすぎるのも問題だね。まだ若いのにそんな枯れた生活をして…」
伯爵の従者、狭霧に呆れたように笑われたほどである。

初恋のひと、北白川梨央を忠義な騎士さながら思い続け、その片恋が終わりを告げても、さほど傷心にはならなかったのは、暁の出現だろう。
暁は以前から気にかかる存在だった。
眼を見張るほどに美しく、しっとりと優美で儚げで…

この世ならぬ美貌の少年はどのような人生を歩むのか、他人に興味を持たぬ月城が珍しく関心を持ったのは暁が初めてであった。
…しかしこの稀有な少年が人並みな幸せな人生を歩むとは到底思えず、密かに気掛かりに思えていた時に…
大紋に激しく抱かれる暁を偶然目撃したのだ。
屋敷の温室で…薔薇の花に埋もれながら、まるで散らされる儚い花のように抱かれる暁は美しく、妖しく…月城はその時初めて、他人に対して抑えきれない欲情を滾らせたのであった。

…その日以来、月城は暁に恋をしたのだ。
自分でも自覚のないまま…取り返しのつかない、後戻りのできない恋の沼に陥ってしまったのだ。

…それ以来、暁だけが自分を狂おしいほどに狂わせ、野獣のような劣情を催させるのだ。
尽きることのない妄執の海に、時として月城自身も溺れそうになる。

「…月城…すき…」
月城に組み敷かれ、暁は潤んだ美しい瞳で熱く切なく見上げる。
「…暁様…」
…そうだ。…溺れるならば、一緒に…。
死ぬまで一緒だ…。
この白く華奢な手は決して離さない…。

「…愛しています。暁様…」
月城は悦びに慄く花のような唇をそっと、万感の思いを込めて奪うのだった。
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