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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第4章 ハニームーン・ペーパームーン 〜蜜・月・旅・行〜
「…まあまあ、お連れ様は大丈夫でございますか?…なんでも温泉に湯あたりなされたとか…。こちらの温泉は温度が温めで柔らかなので、長風呂されてしまわれるお客様が多うございますよ。お客様もお気をつけなさいませね」
陽気な中居が、熱燗を卓の上に載せながらにこやかに笑う。
「…は、はあ…」
宿の格式高い懐石膳が所狭しと並べられた卓の前に座り、暁は白い首筋を朱に染めながら俯いた。

…月城との濃密な愛の営みは数時間要した。
暁は身体が蕩けだすような絶頂を何度も味わい、意識を失いながら月城の腕の中で果てた。

当然、夕食の時間に間に合うはずもなく…宿の中居に連絡し、二時間遅れで遅い膳を設えてもらったのだ。

「…こちらの温泉があまりに気持ちよくてつい入りすぎたようです。お手数をおかけいたしました」
涼しい貌で盃を傾ける月城を暁は恨めしそうな貌で睨む。
月城は涼やかな眼鏡越しの瞳で楽しげに笑いかける。
「…旦那様もハンサムでいらっしゃいますが、お連れ様も本当にお美しい殿方でいらっしゃいますね。宿の中居達が興奮して騒ぐのも無理ありません。お部屋係の私は羨ましがられました」
中居は人懐こく微笑みながら、二人に熱燗のお酌をすると、
「…ではごゆっくりお召し上がりくださいまし」
一礼し、部屋を辞した。

暁はまだ恨めしそうに月城を上目遣いで睨んだ。
「…もう。君のせいだからな。…僕は一度でやめようって言ったのに…」
「申し訳ありません。貴方が余りに艶っぽくて…我慢が出来ませんでした」
杯を乾かしながら、目を細める月城は成熟した男の色気に満ち溢れ、暁はもう何も言えなくなる。
月城は甘やかすように、暁の盃に熱燗を注ぐ。
「ご機嫌を直してお召し上がりください。信州の田舎とはいえ、なかなかの膳ですよ」

…確かにそうだ。
先付けの海老芋と鴨の炊き合わせ、前菜の柿の白和え、柿の葉寿司、信州の山女魚の塩焼き、鰤と信州味噌の幽庵焼き、信州牛のたたき、山菜と茸の天婦羅、走りの松茸の土瓶蒸し、松茸ご飯…と、信州の山の幸がふんだんに取り入れられた、素朴ながらも品の良い料理の数々が並んでいた。

暁は好物の山女魚の塩焼きに箸をつけ、口に運ぶ。
「…美味しい…!」
新鮮な川魚の旨みが口に広がり、思わず笑みを漏らす。
「それは良かったです」
月城が嬉しそうに笑う。

…その時、襖越しに柔らかな声が掛かった。


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