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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第4章 ハニームーン・ペーパームーン 〜蜜・月・旅・行〜
「…失礼いたします…」
落ち着いた品の良い声が響き、静かに襖が開いた。
振り返るとそこには菊をあしらった鶯色の京小紋を身につけた庇髪の美しい中年女性が三つ指をついていた。

月城が懐かしそうに声をかける。
「…葵さん、久しぶりですね」
葵と呼ばれた女性は、月城を見ると懐かしそうな…少し眩しそうな情感のこもった眼差しで微笑んだ。
「…月城さん、お久しぶりでございます。…本日はようこそお越しくださいました」

静かに一礼しながら入ってくる女性に、月城が紹介をする。
「暁様、こちらは私の大学の同窓生の中城葵さんです。この枇杷の湯の女将をされているのです」
葵は二人の前に座るとにこやかに笑い、暁を見た。
「…縣様ですね。お噂はかねがね月城さんよりお伺いしております。…まあ…!本当にお美しいお方でいらっしゃいますこと…。まるで錦絵から抜け出していらしたようなお綺麗なお方ですわね」
「…い、いえ。そんな…」
暁は狼狽し、俯く。

…月城と同窓生…。こんなに若々しく美しい人が…。
何となく胸がざわめく。
「葵さんとは僕の親友を介して知り合いましてね。ご実家の枇杷の湯を継がれてからは、旦那様が信州を旅された時にこちらにお泊りになることが多くて、度々お世話になっているのです」
月城もいつもとは違う懐かしさに溢れた眼差しで葵を見る。
「とんでもございません。北白川伯爵様のような素晴らしいお方が常宿にしてくださり、光栄です。…本日はまた煌かしいほどお美しいお方をお連れいただいて…ありがたい限りですわ」
「…恐れ入ります…」
…月城は自分のことをどこまで話しているのだろうか。
暁はやや緊張しながら、笑みを作る。
「温泉以外はこれと言って何もない鄙びたところですが、どうぞごゆっくりお寛ぎ遊ばしてくださいませ。縣様」
葵は完璧な作法と品の良い温かな言葉でそう暁に告げると、二重の美しい瞳で微笑んだ。

葵が部屋を辞そうとすると、月城が声をかけた。
「葵さん、ありがとう。…君が元気そうで安心したよ」
すると葵は、ふと嬉しそうな表情の中にもどこか切なげな…恋しいような眼差しを一瞬見せて、そっと微笑った。

「…ありがとうございます。…月城さんこそ…お幸せそうで何よりですわ…」


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